自社商品に関心を持てない経営者では意味がない

 デザイナーの提案はすぐに受け入れられるようになりましたか?

 それをやるためには、社内的にデザイナーに対する信頼性を得るしかありません。そのためにもいろいろな活動をしています。最も大きいのは、デザイン本部主催で年度末に実施するプレゼンテーションです。社長以下トップに対して、世界各国の9つの拠点がやっている仕事を一同に集めて、その年度にやったデザインの発表や、デザイン本部が考えているグローバルのデザイン戦略、地域ごとの戦略をすべて紹介し、理解を得ます。

 それ以外にも審査会を開き、同じくトップが並ぶ場面で、デザイナーの考えについてもプレゼンします。デザインのトリック、たとえば錯視について説明したこともありました。こうやると長く見える、こうすれば短く見えると、実際に違いを見てもらうんですね。要は、デザインのネタバラしです。

 丸いものを四角に見せたり、大きなものを小さく見せたり、デザイナーは長年の経験からさまざまな手法を持っていることを、審査する人たちにもわかってもらう。それを理解してもらうと、やっぱりデザイナーに任せたほうがいいなと思ってもらえるようになりました。

 デザイナーをその道のプロフェッショナルとして認めてもらうわけですね。

 そうです。そうすれば、会議で「こうすべきじゃないの?」と言われたことに対して、「これは戦略としてやっていますから、しばらく見ていてください」と自信を持って言える。「これくらい刺激が強くないと埋没しますよ」と断言しても、「お前が言うなら仕方ないな」となるわけです。

 前回お話ししたようにデザインの流れを読むとはいっても、2年後に売れるか売れないかなんて、誰も確信を持って言えません。ましてや、デザイナーが言われたままにデザインを直すようなら、「デザイナーが自信ないなら、これはマズいのかもしれない……」と思われるでしょう。

 デザイナーは自信を持って主張すべきです。だからこそ、自信を持って提案できるものでなければ相手に失礼ですよね。「これで勘弁してください」などというゆるい提案は許されません。

 それまでは社内の顔色をうかがっていたものが、よりお客様中心で考えるように変わったと感じます。

 社長は、持続的成長は目指すが、台数だけを追うような開発はしないと明言しています。お客様が欲しいと思う車をつくれば、台数は後からついてくるということです。

 担当者からトップまでが同じ方向を向いてモノづくりをしていれば、議論にはなっても批判にはなりません。ところが上下関係だけが決める軸になると、たとえば上の人が期日を守ることばかりを重視したとしますと、日程を守ることだけが重要になります。スケジュールに間に合う・間に合わないはお客様の価値観ではありません。社内的な事情であり、個人の勝手な価値観です。

 なかなかうまくいかないこともありますが、社長自身がその旗を振っているのは心強いです。

 豊田社長は心から車が好きな人だと聞きました。それを実感することはありますか?

「上下関係だけが決める軸になると、たとえば上の人が期日を守ることばかりを重視したとしますと、日程を守ることだけが重要になります。スケジュールに間に合う・間に合わないはお客様の価値観ではありません。社内的な事情であり、個人の勝手な価値観です」

 経営者が自分の会社でつくられているもの、売っているものに興味がなければ、何の意味もありません。世の中の多くの経営者は収益を上げることばかりに目をやりますが、金の計算ばかりを始めるとビジネスは失敗します。そして、いざ商品が売れなくなると「価格を下げろ」言います。それで売上げは上がるかもしれませんが、利益はどんどん下がりますよね。

 先日、中国で行なわれた「SAE-China Design Management Workshop」で、中国自動車メーカーのデザインの勉強会に呼んでもらいました。彼らに聞くと、デザイナーの話がなかなかトップに理解されないそうです。最後には「お前はMBAを取ってないだろう?」と言われてしまう、と。私はそこでこう言ったんですよ。「リーマンショックの時に、MBAを持っている人たちも会社をたくさん潰しましたよね」

 トップとして重要なのは、MBAを持っているかどうかではありません。経営者自身が、自社の商品がお客様に受け入れられているのか、受け入れられていないのかを見抜く力があるのか、です。だからこそ、自分の会社の商品を好きにならないといけない。新商品を家に持って帰り実際に使い、使いにくいと感じたら商品企画に伝える。あくまでも、数字は後からついてくるものだと思います。

 多くの部下は上司の価値観で仕事をします。上司がお客様の顔を見ていれば、部下もお客様の方向を見る。しかし、トップが帳簿上の数字だけ良くしようと思ったら、部下もそうなってしまいます。目先の目標をクリアすれば次のステップにいけるからと、苦しさの余り数値をクリアすることを考える。その結果、数値をクリアできたとしても、そこにはお客様が不在の商品ができてしまうのです。

 モノづくりに必要なのは目標ではありません。目的なんです。常にお客様を見ることが不可欠だと私は思います。

 

【編集部からのお知らせ】

10月13日・14日の2日間、世界中からマーケティングの叡智が結集!

ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015

日程:2015年 10月13日(火)9:30~18:15
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会場:グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール3F「北辰」(東京都港区高輪3-13-1)
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