子どもが大学卒業を迎える頃であれば、こう助言してあげよう。キャリアにおいては、3つの相容れがたい要素の間でトレードオフをしなければならない。

1.やりがい:自分が携わる仕事の本質的な特性、自分の役割が持つ影響力、自由裁量の度合い、どれほど多く学べるか、自分の関わるブランドにどの程度誇りを持てるか。

2.ライフスタイル:住む場所、労働時間、スケジュールに関する裁量、通勤の必要性、その他の労働条件全般。

3.金銭:基本給、ボーナス、エクイティ報酬、長期報酬。

 これらが「キャリアの3要素」である。

 現実的には、3つのうち1つを最大化するのはわりと簡単で、2つ目を最適化するのも不可能ではない。しかし、特にキャリア初期においては、すべてを最大限にするのは極めて困難だ。投資銀行でインターンをしている娘が「深夜残業が多い」とこぼしていたら、本当に仕事を楽しんでいるか問いかけてみるとよい。ノーという答えが返ってきたら、金銭面だけを追求している状態から離れて別の道を模索すべきかもしれない。教育系非営利団体のティーチフォーアメリカで働く息子が、財布のやりくりに苦労しつつも、仕事が好きでその環境を楽しんでいたら、今は質素な生活を送るのがよいと励まそう。そして、近い将来に収入面をふまえてキャリアを調整できる機会がきっと来ることを伝えよう。

 お金と仕事の関係については、当たり前すぎて多くの人が見過ごしているものの、良いアドバイスがある。もし息子や娘が高収入を望むなら、唯一にして最良の方法は給料の高い業界に就職することだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙の有名コラムニスト、ベン・スタインは大学の新入生についてこんなコラムを書いている。自身が1960年代初めにコロンビア大学で学生生活を始めた頃、もしこんな実利的なアドバイスがあればありがたかったはずだという。「長年にわたり見てきたところ、金融や企業法務の分野で優秀な人は必ず金持ちになるか、少なくとも余裕を持てる。どんなに頭が良くても、短編小説や人類学や役者の道ではめったに金持ちにならない」

 キャリアのあり方について親が子に強調しておくべき最後のポイントは、人間関係の力である。仕事を得るうえでも、仕事で成功するうえでも人間関係は決定的に重要だ。そして人生全般における幸福のためにも一番大事な要素である。人との関わりにおける心構えを伝えよう。常に他者を助けるよう努め、出会った人には誰に対しても礼儀を持って接するよう強く意識すること。特に仕事の場では、相手の組織内での役割や役職にかかわらず敬意を払う必要があること。人を紹介されたら、その後のフォローと関係者へのお礼のメールが大事であることも、強調しよう。

 ただし、人脈づくり(ネットワーキング)に精を出せという助言はすべきではない。子は間違いなく、人脈づくりがあらゆる面でいかに重要かというメッセージをすでに何度も見聞きし辟易している。仕事探しには人脈が不可欠であることをすでに知っているだろう。そこに輪をかけてプレッシャーを与える必要はない。むしろ人脈づくりに熱を上げすぎないよう諭し、ギブアンドテイクという普遍的な真理に基づいた有意義な人間関係の構築を考えさせるほうが、よほど子のためになるだろう。

 リンクトインのプロフィールの作成方法、履歴書の書き方、面接の受け答えなどに関する基本については、進路相談室ですでに多くのアドバイスをもらっているはずだ。第一志望の企業の連絡先や面接後のフォローアップ、次に取るべきステップをエクセルシートにまとめ、「ターゲットリスト」をつくる方法も教わっているかもしれない。それらについては、筆者や優秀なキャリアカウンセラーが書いた本でも学べる。子が親に求めているのはそういうことではない。就職活動の段取りを決めてほしいわけでも、小言を言ってほしいわけでもなく、「情熱に従うべきだ」といった無意味な決まり文句がほしいのでもない。

 何を犠牲にして何を得るべきか――それを子がじっくり考えられるよう後押しするのが、親の役目なのだ。その際、何もかも自分自身の経験と結びつけようとする衝動を抑えなければならない。さもないと「自分のやり方はこうだった。だから君も同じ道を行くべきだ」と響いてしまう。そうではなく、キャリアは右左に曲がりくねった道になるであろうことを娘や息子に教えてやるのだ。

 親が子に地図を与えることはできない。しかし地図は必ず存在することを伝え、励ますことはできる。そしてそこに記された道筋を、自力で読み解けるよう手助けすることも。


HBR.ORG原文:What Parents Should Tell Their Kids About Finding a Career May 15, 2015

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ジェームズ・M・シトリン(James M. Citrin)
スペンサースチュアートのシニアパートナー兼グローバル取締役会メンバー。CEOプラクティス部門の責任者も務める。著書に“The Career Playbook: Essential Advice for Today's Aspiring Young Professional”(Crown Business、2015年)、共著に“You're in Charge--Now What?”(邦訳『CEO 最高経営責任者』アスペクト、2005年)などがある。