ではどうすれば、部下が重大なミスを犯した時に思いやりを持って対応できるのだろうか。

1.少し時間を取って冷静になる
 ドーティによれば、最初にするべきことは、怒りや苛立ちといった自分の感情をコントロールすることだという。「一歩退いて、自分の感情的反応をコントロールする必要がある。感情にまかせて振る舞うと、問題への対処法を冷静に考えることができないからね。一歩引いて考える時間を持つことで心理状態が変わり、より思慮深く、合理的で、分別のある対応ができるようになる」。自分を客観視し感情をコントロールする方法として、瞑想も有効だ。

 怒っていない素振りを演じながら接するのはやめたほうがよい。スタンフォード大学のエミリー・バトラーらの研究によれば、こうした見せかけの態度は自分と部下両方の血圧を上昇させるという(英語論文)。少し時間を取ってクールダウンすれば、状況をもっと冷静に見ることができる。

2.部下の立場に自分を置いてみる
 冷静になることで、部下に共感できるようになる。なぜドーティ博士は、悲劇が起きる寸前だった手術で研修医に思いやりを持って対応できたのだろうか。自分自身の最初の手術体験を思い出すことによって、ドーティは研修医の立場を我がことのように感じ、思いやることができた。それによって苛立ちを抑制し、すでに怯えている研修医を傷つけることなく、心の平静を保って少年の命を救ったのである。

 他者の立場に立って物事を理解すること(perspective taking:視点取得)は、有益な能力である。諸研究によれば、この能力によって、ある状況下で普段ならば見過ごすであろうことに気づくことができ、対話や交渉でより良い成果を得られることがわかっている。人は大きな権力を伴う地位に就くと、本来持っていた共感力が希薄になるという傾向がある。したがってマネジャーはそれを十分に自覚し、部下の視点に立って状況を眺める訓練をすることが特に重要である。

3.許す
 言うまでもなく、共感を持てば人を許すことが容易になる。寛容性は、部下の忠誠心を高め関係を良好にするだけでなく、上司自身にもよい影響をもたらす。ワシントン大学のペギー・ハノンらの研究によれば、遺恨を引きずることは心臓によくないが(血圧と心拍数がともに上昇する)、許しを与えることで、自分と相手双方の血圧が下がるという(英語論文)。マイアミ大学のグラコモ・ボノらの研究、およびテネシー大学のキャスリン・ローラーらの研究では、寛容な心を持つ人はストレスやネガティブな感情が大幅に減るため、幸福度と人生の満足度が高まることがわかっている(英語論文)。

 アメリカ心理学会の報告によれば、職場での信頼、忠誠心、創造性が高いレベルにあり、ストレスが少なければ、従業員の満足度と生産性も高く、離職率は低い。ポジティブなコミュニケーションによって、従業員の健康が促進され病欠が少なくなる(英語論文)。思いやりのあるマネジメントは顧客サービスを向上させ、クライアントの成果と満足度も高めることを示す研究もある(英語論文)。

 ドーティは、手術室から人を追い出したことはない。「単に見逃しているのではないんだ。ミスを自覚した人に思いやりを持って対応することで、その人を潰すことなく、教訓を学んでもらうことができる。そして、親切にしてくれた上司のために頑張ろう、という気持ちになってもらえる」とのことだ。


HBR.ORG原文:Why Compassion Is a Better Managerial Tactic than Toughness May 07, 2015

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エマ・セッパラ(Emma Seppälä)
スタンフォード大学の心理学研究員。同大学で思いやりと利他主義研究教育センターの共同ディレクターを務める。企業の福利に関するコンサルティングを行い、科学ジャーナリストとしてハフィントンポスト紙や自身のウェブマガジン「フルフィルメント・デイリー」などにも寄稿する。