未来社会の姿を予測し、課題の発見を

――これからの企業経営には、経験と勘、度胸にデータが必要とのことですが、企業がIoT、データ活用を推進するためには何が重要になりますか。

 カギを握るのは、トップのリーダーシップです。データ活用でよくある誤解ですが、当研究室に企業幹部の方がいらして、「データを集めたので価値を抽出したい。知恵を貸してほしい」と言われることが結構あります。そこで「データ活用で何をしたいのですか」と尋ねると、答えられないケースが多い。データ活用が目的ではありません。ビジネスにおける課題発見とその解決が目的であり、課題解決のツールの一つにIoT、データがあるのです。

 当研究室に来られる方はまだいい(笑)。経営者のなかには、わからないものはすべて部下に丸投げして、自らは決断しないケースがまま見受けられます。丸投げされた中間管理職は、データ活用の費用対効果や創出価値、投資回収時期の明確化など予測困難なことを予測する作業に没頭してしまい、いつまで経っても物事が進まない。日本人が陥りがちな罠は、オペレーションとイノベーションの区別ができないことです。オペレーションは先が見えますが、イノベーションは先が見えません。先が見えないことに対しては、トップが方針を示し、明確に指示を出すしかありません。

 もう一つ、見誤ってはいけないのが、社会変革が価値創出の源であるということ。未来社会の姿を予測し、未来社会を前提に課題を発見し、解決していく必要があります。ところが、変革したビジネスの姿を想像しないで、既存のビジネスを前提に価値創出を一生懸命考える人が多い。たとえば、自動車メーカーの関係者がデータを収集するとします。将来は自動運転の実現でタクシーや運送業も競合相手になるかもしれませんから、これらの関連データも集める必要がありますし、車を保有する・しないが競争になるとすれば、車を所有したいという愛着心を育てていくためのマーケティングをどうすべきか、データを取って考えていく必要があるでしょう。

 重要なのは、課題解決指向でIoT、データ活用を考えることです。その好例が、国土交通省のインフラ管理への応用です。将来発生するインフラ管理の課題を予測するとともに、モニタリング技術に関する現場ニーズを明確化し、これを公開することで、幅広い関係者が結集し、現場の意識も変わりました。さらに優れているのは、新技術を公募・活用・評価し、現場での利用を推進する仕組みを構築したことです。いろいろな技術が提案され、サイトにアクセスすれば見ることができます。まさにオープン・イノベーション手法の上手な活用例だと思います。

 課題解決に向けた挑戦は、9割以上が失敗に終わると言われます。新しい価値を創出し、ビジネスを変革する挑戦を促進するには、失敗を許容する組織風土の醸成と、「ナイス・トライ!」の考え方が大切です。IoT、データの活用により、さまざまな事象の見える化が可能な時代には、成功の反対は失敗ではなく、何もしないことなのです。

 「未来を予測する最良の方法は、未来を創ることだ」(経営学者のピーター・ドラッカー)、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」(パソコンの父と呼ばれるアラン・ケイ)という言葉を最後に贈ります。

(構成/堀田栄治 撮影/三浦康史)