ものづくりとサービスの融合で異業種間競争が生まれる

――一方で、IoT、データの活用はビジネスそのものを大きく変えると言われていますが、具体例をいくつか紹介していただけますか。

 一つは、オランダの農業です。オランダにおける野菜の単位面積当たり収穫量は日本の10倍くらいあります。1980年代から始まったデータ活用などの施策を実施した結果、生産性が飛躍的に向上しました。オランダの農業にイノベーションをもたらした要因は二つあります。一つは、作物の生育制御。もう一つは、生産と市場の連携です。これによって、市場価値の高い時期、場所に必要とされる量と品質の作物を出荷することができるようになりました。EU統合によりオランダの農業は衰退すると言われていましたが、IoT、データ活用によって競争力の高い農業に変貌を遂げました。

 生育制御が可能になり、市場と連動した農業が可能になると、日本でも農業ビジネスは大きく変わります。たとえば、ある食品メーカーが、ハーブに合う新しいドレッシングを開発したとします。キャンペーンをやりたいけれど、かつての経験と勘に基づき、自然に左右される農業では、キャンペーン時期に合わせたハーブの提供が確実にできるわけではありません。一方、IoT、データを活用してハーブの生育を制御することができるのであれば、新商品の発売に合わせてハーブを収穫できます。

 バリューチェーン全体の管理に向けた取り組みも大きく変わります。山崎製パンは、国内20拠点の工場と約10万店舗ある販売店間の全データを一元管理し、利用しています。これによって、①生産・配送業務の効率化②全業務のプロセス監視や現場の進捗状況の可視化など経営判断の迅速化③商品のトレーサビリティ確保による商品管理などの運用負荷の軽減、コスト削減――などを実現しています。

 今後、バリューチェーン全体の管理によって、需要変化に応じた生産プロセスのリアルタイム最適化も可能になります。人気に生産が追いつかず、販売休止となった清涼飲料がありましたが、これからは、需要をリアルタイムで把握し、需要増に応じた原材料の調達と生産計画の変更が可能になります。売り逃しもないし、不良在庫も抱えない、そんなことが当たり前の時代になります。

 さらに大きな変化は、ものづくりとサービスの融合が新たな段階を迎えているということです。コマツは建設機械の自動運転によって、建設工事を自動的に行うという新たな価値を創出しています。建設機械と建設工事の例のように、モノにサービスを付加して価値を創出すると、モノの提供とサービスの提供の境界線が変わります。

 現在、配車サービスのウーバーが、世界各地でタクシー会社と軋轢を起こしていますが、今後、自動運転の実現により、配車サービス、タクシー会社、運送会社、自動車メーカーの境界が変わるかもしれません。監視カメラと監視サービス、ドローンとそれを活用するサービスなど、他の分野でも同様の動きが起こる可能性があります。IoT、データの活用は、競争の枠組みと産業の姿を大きく変えるでしょう。

 医療や教育、インフラ・建物管理、マーケティングなど、IoT、データ活用による大変革は、あらゆる分野で始まっています。しかし、変化がゆるやかなので、まだ気づいていない人が多いのが現状です。パラダイムシフトが起きているにもかかわらず、気づかないまま経営を続けると、どんな企業でも商売は持たないでしょう。経営者は、「経験と勘と度胸」に基づく経営から、「経験と勘と度胸とデータ」に基づく経営にシフトしていかないといけないのです。