他人の武器を借りてターゲット市場を狙い撃ちする

 外部リソースの使い方が巧みな第3のパターンとして、トルコのビールおよびソフトドリンクメーカーである、アナドル・エフェスも注目に値する。同社は、トルコで自動車、小売、発電、金融など幅広いビジネスを展開する、アナドル財閥の飲料企業である。トルコではソフトドリンク事業(売上の6割)、ビール事業(4割)とも圧倒的な首位を確保し、海外にも広く展開する。1969年にビール事業を開始し、1990年代に買収でソフトドリンク事業に参入し、その後はアライアンスを活用し海外展開を本格化させた。

 アナドル・エフェスの海外戦略の特徴は、狙うべき市場を定め、それに対して他社が築いたブランドや販路の資産をうまく借用して攻略に使う点にある。具体的には、その戦略行動は2つのステップで整理できる。

 第1に、同社は狙うべき市場について明確な基準を持ち、一貫してそれを守る。「基準」とは、常にシェアで1位か2位を取れる市場に参入することである。同社は母国トルコおよび他のイスラム教国を中心に、競争が激しい大市場でなく競合不在のチャンス国に的を絞る。そして市場の条件に合わせて、イスラム教国ではソフトドリンクを、許される国にはビールも合わせて展開する。実際に同社が上位を確保しているのは、旧ソ連(ロシアのほかカザフスタンなど8カ国)、中東(ヨルダン、イラク)、南アジア(パキスタン)である。

 そして第2に、狙う市場を攻めるための武器を、自前の資産でなく外部との提携で調達する。同社は機会に合わせてその都度、現地企業やグローバル競合の力をうまく使いこなしている。

 まずソフトドリンク事業では、コカ・コーラのボトラーとしてそのブランドを活用する。同社は独自ブランドも持っているが、消費者に新たな海外ブランドを浸透させるのは簡単ではない。そこで同社は、海外展開にあたってはまず現地に基盤があるボトラーを買収し、そこに世界最強のコーラブランドを借りて展開する投資を繰り返している。特にパキスタン、トルクメニスタン、カザフスタンなど、アルコール商品に制約があるイスラム教国でこの手法を忠実に再現している。

 一方でビール事業においても、アナドル・エフェスは他社の力を効果的に活用している。同社は2003年のモルドバ・セルビアをはじめ、地場企業を買収しそのブランドと販路を生かして1位か2位に躍り出る方法を使い、旧ソ連諸国で海外展開を進めた。しかしその後、ビール業界では統合を重ねたグローバルメガプレイヤーが台頭し、中堅企業である自社が正面から海外で勝つことが徐々に難しくなっていく。そのため、2008年からは世界屈指のビール企業であるオランダのハイネケンと戦略提携し、その資産に相乗りするためにセルビアとカザフスタンでオペレーションを2社統合した。

 ところがその後、世界のビール市場では新興国に出自を持つアンハイザー・ブッシュ・インベブとSABミラーが急速に買収を重ね、圧倒的な地位を固めていく。そこで同社は2011年から、提携相手をより強力なSABミラーに切り替え、トルコ、中東、旧ソ連で販売協力を始めた。さらに翌年には、世界4位の市場であり長年苦戦してきたロシア・ウクライナで、SABミラーが持つ強い事業基盤を買収し一気に飛躍することに成功する。このとき、同時にSAB ミラーに自社株式の24%を譲渡し、筆頭株主として受け入れる資本提携に踏み込んでいる。これらの行動には、その時々でより強い武器を持つ相手を冷静に判断し、一定の犠牲を払ってでも外部の強みをレバレッジして戦う姿勢が一貫している。

 M&Aは日本企業でも広く活用されるようになったが、現実には買った後に悩む企業があまりに多い。買収後も現地に対して口を出さず、結局ゆるやかに放置される例も多い。一方で新興国企業は、買収が競争力強化のスパイラルとなるモデルを作る。または買収を自分自身の変革に使ってしまう。さらに買収ありきでなく、外部資源の使い方について提携や組織形態まで含めて自社流の戦略を持つ。自社の枠を超えた他社の力の使い方を磨くことは、多くの日本企業が強化すべき領域としていまだ残されている。

参照)
Indofood Website, Annual Report等
JBS Website, Annual Report等
Tata Global Beverages, Website, Annual Report等
Anadolu Efes Website, Annual Report等
Harvard Business School (2008). JBS Swift & Co. (ケース).
Harvard Business School (2014). JBS (ケース).
INSEAD (2004). Tata Tea Limited (A) (ケース).

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