学ぶ力を取り戻すことで、
日本企業は力強く復活する

 10回にわたって続けた本シリーズも、今回が最終回である。

 これまで、ビジネスにおいて勝つこと、それを成し遂げるための戦略の重要性を強調した。それは、勝つ意欲の減退、戦略的な意思決定の先送りが、日本企業の成長を阻んでいるのではないかと懸念するからだ。

 長く人事部門で仕事をしてきた私が目指してきたのは、企業と従業員がともに成長し、幸せになれるような職場づくりである。ヌルい職場、簡単にサボれてラクな仕事ができる環境が、従業員を幸せにするとは思えない。

 そうではなく、厳しいけれど温かい組織が人を成長させる。社内の規律や競争は厳しくても、切磋琢磨しながら互いに高めあうことができる。あるいは、能力以上の役割を求められて苦しむことがあったとしても、チャレンジと成長の機会があることが大事だ。たとえ失敗したとしても、チャレンジによって人は成長する。失敗の教訓は次のチャレンジに生かせばいい。そんな仕事を通じて人は育ち、満足感を得ることもできる。

 また、社内に信頼できる上司や同僚がいることも重要だ。信頼関係の土台の上で、自分の意見を率直に表明でき、それを周囲が聞いてくれる。そんな環境が働く人たちのパフォーマンスを最大化し、イノベーションを促進する。

 以上は理想である。ただ、私がP&Gに在籍した30年余りの間に、仲間たちとともに理想に近づける努力を続け、一定の成果を上げることができたという自負はある。

 1980年代、日本企業は世界中を席巻した。欧米のビジネススクールには日本の経営、ビジネスのあり方に関心を持つ研究者がたくさんいた。いまとなっては懐かしい風景だが、日本企業は再び存在感を高めるだけの力を秘めている。その力のコアにあるのは学ぶ力だと思う。

 ただ、日本企業は一時期、その成功体験ゆえに学ぶことを忘れてしまった。本来、外部から学んで自らを変え、さらに別の要素を加えて新しい価値を生み出す能力の高さは、日本人の特質といえるものだ。古くは、仏教の伝来後に独自のエレガントな仏像を創造したように、漢字を受容して仮名を発明したように、日本の歴史には数えきれないほどの例証がある。

 学ぶ力を再活性化することにより、日本企業は力強く復活するだろう。私自身は、そのようなプロセスに多少なりとも貢献したいと考えている。