経営理念などの第一条に「従業員の幸せの追求」を掲げている日本企業は珍しくないが、本当にこれを実行しようとすると、従業員のための病院が必要になるかもしれない。個人のパフォーマンスを超える賃金、社会の平均値を大幅に上回る企業年金など、「幸せ追求」のためになすべきことを並べていくとキリがない。果たして、そんな企業が長期的にビジネスを維持・発展させることができるだろうか。

スピードが求められる時代、
雇用優先で海外勢に勝てるのか?

「会社は社員のために存在する」という考え方は、日本の経営者の間にかなり広く浸透している。それにより、自縄自縛に陥っている企業は少なくない。

 たとえば、戦略のレベルで事業の海外シフトが迫られており、日本で1000人の社員を減らし、中国で3000人の社員を雇わなければならない企業があったとしよう。その取り組みは国内雇用の自然減に合わせて、ゆっくりとしたスピードで進むことになるだろう。雇用の優先順位が高いので、国内の人員を一気に減らせないからだ。

 同じ場面に遭遇した場合、欧米や中韓の企業の行動は速い。日本企業が5年かかることを、彼らは半年、1年という期間でやってしまう。このような状態で、本当にグローバル競争に勝てるだろうか。劣勢に立たされれば、やがて追い込まれて人員削減に取り組まざるをえなくなる。余裕のある時期のそれに比べると、余裕がなくなってからのリストラは厳しいものになるだろう。

 また、日ごろから「会社は社員のために」といっている企業が、本当にそう思っているのかというと疑わしい。その中には、教育プログラムは貧弱、社員にキャリアプランを示すこともない企業が多く含まれていたりする。言っていることと、やっていることが違うのではないだろうか。

 日本企業がビジネスの持続的な発展を目指すなら、まず戦略を立てること。そして、繰り返しになるが、戦略に基づいて人材や報酬制度など六角形の組織デザインを考えるのである。

 私の見るところ、多くの日本企業はビジネス戦略と組織デザインの間に齟齬がある。たとえば、「女性が活躍できる職場づくり」を掲げながら、それによって競争力強化につながるシナリオを描けていない。または、シナリオが存在していたとしても、それが経営者の中で腹落ちしていない。

 年功序列・終身雇用型の人事システムを維持したまま、「グローバルの優秀な人材を獲得して海外市場を攻略する」と願望だけを膨らませている企業を見かけることもある。つまり、戦略に合った組織づくりが行われていない。このような現状の見直しは、日本企業にとって重要な課題である。