5.知識をうまく引き出す
 エキスパートからうまく知識を引き出すには、学習者は鷹とスポンジを組み合わせたような人になる必要がある――学ぶチャンスを鋭く見つけ逃さず、貪欲に吸収するのだ。最も重要なノウハウを箇条書きで教えてもらえるなどと期待してはならない。まず、そんなことは不可能だ(エキスパートはそれらの知識を、特定の状況で必要になった時に初めて思い出すため)。そして、侮辱でもある(そのようにたやすく伝授できるものなら、たいして価値のない知識のはずだ)。しかも双方にとって不満が残る(ノウハウというのは、講義形式のみでは真の学びにつながることはまずない)。その代わりに、知識を引き出すための最も強力な2つの質問を投げかけてみるとよい。「どうしてですか」、そして「例を挙げてくださいますか」である。

6.エキスパートの仕事を観察する
 じっくり観察することは、言葉で説明してもらうよりも往々にして効果的である。エキスパートの思考と行動がリアルタイムでわかるからだ。重要な会議に同席させてもらう、カンファレンスや顧客訪問に同行する、問題解決の場面を見学させてもらう、などが有効だ。これは決して受動的なプロセスではなく、常に自問を続けることになる――「エキスパートはどうしてあのような行動を取ったのだろう」、「どんな効果があっただろうか」、「自分なら違うやり方をするだろうか」。観察後は、たとえば駐車場に戻る間の数分でもよいので、説明を求めよう。自分が観察し理解したことが、相手の意図と合っているかを確認するのだ。そしてエキスパートが実行した手段とその理由を、自分の言葉で言い換えることができるか試してみるとよい。

7.「小さな経験」を積む
 エキスパートは、組織で特定の環境、状況あるいは役割において貴重な存在となっている。それらを、限定的な形でみずから体験する機会を探ることが次のステップだ(これについては拙著Critical Knowledge Transferでも説明している)。あなたがMRI機器の設計者になるためにエキスパートから学んでいるとして、今からメディカルスクールに通うことはできないかもしれないが、診察室で1週間見学させてもらうことならできるはずだ。会社のコールセンターからキャリアを開始した優秀なセールスマネジャーを見習っているなら、それまでの自分のキャリアは違っていても、電話対応の仕事を数日やってみることならもちろん可能だろう。

 エキスパートは状況を深く理解したうえで判断しているが、学ぶ側はそうした状況に少しでも触れる「小さな経験」をすれば、気づきが得られる。少なくとも、より優れた質問をして知識をもっと効果的に引き出せるようにはなるだろう。

8.目に見える価値をなるべく早く示す
 一連の知識継承の活動には、価値があるのか――エキスパート、そして新たな分野で自分の上司となる人物は、その根拠を目にしたいはずだ。自分の活動と学習の内容を記録しておけば、努力と進歩の証しとなる。しかしもっと望ましいのは、エキスパートが他者に任せようとしている(あるいは熱心に移譲を望んでいる)仕事の一部を引き継ぐことだ。業界のカンファレンスや打ち合わせに出席する、社内研修の一部で教える、報告書の草稿を作成する、などがある。

 専門知識の習得は時間を要するものであり、通常は7年からそれ以上かかるとされている。しかし上記のステップに従えば、もっと早く経験知を獲得して行使できるだろう。


HBR.ORG原文:How to Build Expertise in a New Field April 08, 2015

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ドロシー・レナード(Dorothy Leonard)
ハーバード・ビジネススクールのウィリアム・J・アバナシー記念経営管理論講座名誉教授。コンサルティング会社レナード=バートン・グループのチーフアドバイザーも務める。共著書にCritical Knowledge Transfer(Harvard Business Review Press、2015年)、Deep Smarts(邦訳『「経験知」を伝える技術』ダイヤモンド社、2013年)などがある。