30点でも夢のある挑戦を続けたい

積極的なデータ活用をはじめ、御社はこれまで新しいことに積極的に取り組んできた印象があります。外から見るとハイリスクだと感じる取り組みもありましたが、チャレンジを続けられてきたのはなぜでしょうか。

 守るものがあまりなかったからでしょうね。持っている財産がたくさんあると、計画段階から失敗したあとのことばかりを考えがちです。国内線は規制に守られて安定する一方で、それが2倍3倍に発展するとは考えにくかったため、国際線で成長する会社にならなければいけないという認識は全社共通でした。そのため、チャンスがあればいろいろなことをやってみようというムードがあったと思います。

 また、会社の性格として、比較的すんなりとハンコを押す人が多かったこともあります(笑)。実は、これは大事なことです。マーケティングもそうですが、やる前から結果がわかるのであれば誰も苦労なんてしませんし、お金もいくらでもつぎ込めます。ただ、そんなことは誰にもわかりません。だからこそ、これまでの経営者は、うまくいくかどうかの確信は持てなくても、挑戦すべきだと思ったことについては、黙ってハンコを押してきたのです。

 振り返ると、普通の会社であれば決裁までずいぶん時間がかかることもやってきたと思います。そして、良い意味で乱暴な人がいたときにこそ、いろいろなことができました。リスクを嫌う人ばかりだとそうはいかなかったに違いありません。私は、「これまで失敗しても責任をとった人はいないのだから、どんどん新しいことをやれ」といつも言っていますよ(笑)。

「振り返ると、普通の会社であれば決裁までずいぶん時間がかかることもやってきたと思います。そして、良い意味で乱暴な人がいたときにこそ、いろいろなことができました」

 ただ、そう口で言われてもなかなかできないんですよね。人間は、組織のなかでいろいろな経験をすることで度胸をつけていくものだと思います。その点、いまは頭のいい人が増えすぎたのかもしれません。最近はとくに、「グローバル人材が必要だ」と言われますが、私が若いときに求められていた人材も実は同じでした。日本の発展は、国内市場の成長を上回るスピードで世界に出て行ったことにあったのです。

 我々を取り巻く環境は当時からあまり変わっていないと思います。ただ、いまは丁寧にウラを取って100点満点の企画をつくろうという人が増えました。20年前は、たとえ30点でも夢が見られる企画についてはハンコが押され、それが成長するための一つのきっかけになっていたことはたしかだと思います。

大きな夢を見て、それを実現したいという想いが成長の原動力になったということですね。

 お金も実力もない会社は、夢だけはいいものを見続けなければなりませんからね。いまはもうごく一部にしか残っていませんが、私が入社した頃は、「現在窮乏 将来有望」と書かれた額があちこちに置かれていました。ANAはいまは窮乏だ。カネもない、人もない、飛行機もない。でも、将来は有望なのだということです。

 実際、私が入ったときは従業員が1万人くらいで、飛行機も100機に満たない程度でした。ただし、みな気概だけはありました。それが遺伝子となって引き継がれてきたと思います。

 私たちの先輩は、「俺たちが出ないで誰が出るんだ!」と国際線に出ていった。それは2番目だったからだと思います。JALさんという非常にわかりやすい目標がすぐそばにあり、どうすれば追い抜くことができるかばかりを考えていたのでしょう。現在、事業規模では私どもが上をいくところまできましたが、今度は守りの気持ちが強くなり、その遺伝子が途切れてしまうかもしれません。

 だから、それでも夢を見続けること。それがいまのANAに必要なことだと思っています。

 次回更新は、9月11日(金)を予定。

 

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