入学試験の改革

 ジェイコブスは当時を振り返って以下のように語る。

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鳥山 正博(とりやま・まさひろ)
立命館大学ビジネススクール 教授
専門は、マーケティング戦略、マーケティングリサーチ、エージェントベースシミュレーション。国際基督教大学卒(1983)、ノースウェスタン大学ケロッグ校MBA(1988)、 東京工業大学大学院修了、工学博士(2009)。1983より2011まで株式会社野村総合研究所にて経営コンサルティングに従事。 主な著書に『社内起業成長戦略』(マグロウヒル 2010 監訳)「企業内ネットワークとパフォーマンス」(博論 2009 社会情報学会博士論文奨励賞) 「エージェントシミュレーションを用いた組織構造最適化の研究 : スキーマ認識モデル」(電子情報通信学会誌 2009)などがある。

「点数の高い学生が必ずしも優れた経営者になるとは限らないし、良い学生になるとも限らない。そこで、どんな基準を満たした受験生が在学中に良い成績を収め結果的に良い就職をするのか、入学させる基準に関して検証を行った。 GMATの点数なのか、学部時代の成績なのか、あるいは、学部時代の課外活動、推薦状なのか…。その結果、『一匹狼か、チームプレーヤーか』、『自分のために動いているか、人や社会のために動いているか』、というようなことが一番大事だと分かった。

 そして、入試のときにそれを見るのには面接が最も有効だと分かった。しかし、問題はどうやって世界中にいる5000〜6000人もの人々を面接するかだ。そこで、ケロッグでは何が重視されるかよくわかっている世界中の卒業生の面接を受けることを義務付けることにした。当時、他校のディーンには『卒業生の判断なんかを信じるのか』と訝られたが、自信を持って『自分たちの卒業生を信じられなくてどうする』って答えていた。」

 入試はGMATの試験、学部時代の成績、推薦状、そして10ページにも及ぶアプリケーションフォームへの回答文、卒業生面接結果の総合判断だが、膨大な量を読んで判断しなければならず、入試倍率が10倍ともなるとスタッフと教員だけではとても手がまわらない。他校では点数で足切りをしていたが、それではリーダーシップがある将来有望な優れた経営者の卵を落とすことになると考え、学生を入試委員会に登用することで評価する側の人数を大幅に増やし、手間をかけてしっかりと評価するようにした。

 毎年卒業していなくなる学生を入試委員会に入れても選考基準を徹底するのは難しいのではないかという疑問があるかもしれない。しかし彼らには極めて確固とした基準が存在している。「この人とチームを組みたいか?」である。

 もちろん頭の悪い人と組むとえらく苦労するので、頭が良いに越したことは無いが、それと同じくらい重要なのが、人間性が優れていることである。つまり、約束を守る人、正直な人、努力する人、話が通じる人、楽しい人、前向きな人、自発的に動く人、自ら率先して手を動かす人、骨惜しみしない人、人を助ける人、何があっても逃げない人とはチームを組みたいが、ずるい人、利己的な人、嘘をつく人、話が通じない人、つまらない人、後ろ向きな人、言われないと何もしない人、面倒な人、独善的な人、人を踏み台にするような人、イザという時逃げる人とは組みたくないのだ。

 この基準は将来のリーダー候補を見つけるためにも良い基準であると言える。点数という数字で機械的に処理するよりも、数字に現れない美点をいかに見つけて正しい人を入学させるかに組織的なエネルギーを割くという点でもこの仕組みは優れている。