ボリス不利の状況を覆した裏には戦略があった

 本連載でこれまで紹介したように、選挙対策本部としての活動は綿密につくられた戦略と、一貫した実行のコミュニケーションで順調に進んでいた。しかしながら、その情勢は必ずしも安心できるものではなかった。国政で保守党が苦境に立たされていたからだ。

 2012年の年明けに、労働党党首ミリバンド(当時)の失態などにより支持率が回復した保守党だったが、3月からは徐々に支持率が下がり始める。そして国政でいくつもの問題に直面した結果、4月になると保守党の劣勢は明らかであった。

 3月下旬、ロンドン市長選挙の公式期間が始まった直後に発表された2012年の中央政府予算では、税制変更のいくつもの提案に関して、保守党のオズボーン財相が批判にさらされた。さらに、企業献金の見返りとして、特定の個人や団体に首相へのアクセスを与えているという疑惑が報じられた。たたみかけるように、ガソリンを運ぶトラック運転手のストライキが発生して、ガソリンがガゾリンスタンドまで供給されず、交通機能がマヒする事態まで生じていた。

 選挙戦の終盤では、マスメディアによる一般市民の盗聴問題に関連して、保守党の担当大臣が陰でマスメディアを擁護しているのではないかと批判された。そして、その批判はボリスにまで飛び火することになる。

 そうして迎えた投票日の当日。ロンドン市長選挙と同時に行われた全国統一地方選挙での労働党優勢を見て、労働党のミリバンド党首は、「労働党は復活した」と勝利宣言をするほどであった。

 最終的な投票結果は、第一候補の票でボリスが97万票(得票率44%)に対して、リビングストンが89万票(得票率40%)となり、予想通り、第二候補票を含めた戦いとなった。最終的には、ボリスが105万票(51.5%)に対して、リビングストンが99万票(48.5%)である。文字通り、薄氷の勝利であった。

 この選挙結果の原因を単純に決めつけることは難しい。ただし、2つの興味深い分析がある。

 まず、ロンドン市長候補としての第一候補票と、ロンドン議会において各政党が獲得した票を比べてみよう。すると、保守党の71万票に対して、ボリスはそこからさらに26万票を積み上げたことがわかる。一方のリビングストンは、労働党の獲得した91万票を確保できず、2万票少ない89万票という結果であった。

 これは、ボリス陣営による労働党票の切り崩しが成功した結果である可能性がある。すなわち、いわゆる「くさび戦略」と呼ばれるネガティブキャンペーンが奏功して、労働党支持者がリビングストンから離反したと見ることができるだろう。

 次に、ボリス陣営が優先地区として特定した300程度の地区と、それ以外の300程度の地区に分けてみる。すると、ボリスの優先地区では、ボリスの得票率が前回の2008年より約1%ポイント上昇しているのに対し、それ以外の地区では約3%ポイント下落していた。

 全体の情勢として、保守党やボリスの得票率が前回よりも下がるのが前提であったことを考えると、優先地区における得票率の維持・上昇は、その活動がある程度成功したことを示すものと言えるだろう。

 いずれの分析も、数字としてはファクトではある。ただし、その数字が生じた理由は数ある可能性の一つであり、厳密には何が正しいのかわからない。だが、仮にこれらが正しいとするならば、まさに、ポジティブキャンペーンとネガティブキャンペーンの両面での効果的な戦略と、それを一貫して実行するコミュニケーションがあったからこその勝利だと言える。