「税金逃れ」をすぐに公表しなかった理由

 実際の選挙戦においてクロスビーが死んだ猫を投げ込んだのかどうか、私にはわからない。だが、あくまで憶測であるが、イギリスの政治ニュース専門のウェブサイトであるPolitics.co.ukの記事[3]では、ボリス陣営に近い人物が以下の内容を認めたと書いている。その概要はこうだ。

 2012年の年明け、リビングストンが打ち出した公共交通機関の運賃値下げの公約は、徐々に有権者に浸透し受け入れられ始めていた。そして、ついに世論調査でもリビングストンがボリスをリードした。

 インフレで生活費が上昇する中で、現職のボリスは苦境に立たされていた。そこで、クロスビーが死んだ猫を投げ込んだ。労働党によるキャンペーン活動の妨害を狙って、「リビングストンが税金逃れをしていた」という主張が流されたのである。

 リビングストンの税金処理に関して何らかの問題があることを、クロスビーはしばらく前から掴んでいたが、そのネタはいざという時のために公にしなかった。その結果、リビングストンは自身の乾坤一擲の一撃である「運賃値下げ」について語ることができず、代わりに、税金逃れ疑惑についての釈明に追われることとなる。

 そして、即座にこの疑惑を晴らせなかったリビングストンは、彼の陣営が用意したキャンペーン戦略を台無しにして、この問題を引きずり続けることとなった。

 冒頭で紹介したように、このトピックは、投票日から2ヵ月半前に『テレグラフ』の報道によって始まった。そして、投票日1ヵ月前の4月5日、各候補者が過去の税金の支払い記録を公表して沈静化されるまで、ロンドン市長選挙の報道についてまわった。選挙戦全体の趨勢に大きく影響を与える、公式選挙期間が始まる前後、実に1ヵ月半にわたり、波状攻撃のようにこの話題が継続したのだ。

 もちろん、この期間もリビングストンの税金逃れ疑惑だけがアナウンスされたり、報道されたりしているわけではない。この期間、ボリスの2008年の選挙公約に対する実行評価レポートの公表、一部のマニフェストの発表、リビングストンの運賃値下げの公約に対する財源不足の追及など含めて、さまざまなキャンペーン活動が行われている。

 ただ、リビングストン陣営がこの1ヵ月半の間、この問題の対応に追われ、その機能が著しく低下していたということは紛れもない事実である。そうしている間に、本来、彼らが設定したメッセージを浸透させるための時間を失ったということだ。

 次回はキャンペーン戦略のWho-What-Howのうち、最後のHowについて、ボリス陣営がどのようなキャンペーンを展開していたのか紹介する。

[3] http://www.politics.co.uk/blogs/2013/11/24/the-dead-cat-strategy-how-the-tories-hope-to-win-the-next-el

 次回更新は、9月18日(金)を予定。