ネガティブキャンペーンを効果的に行う3つの方法

 選挙戦において効果的なネガティブキャンペーンを行うためには、3つのポイントがある。それは、そのメッセージが聞き手へのネガティブな影響に焦点を絞ったものであり、客観的な事実に基づいたものであり、さらに、それが候補者本人ではなく「代理人」(surrogate)によって実行されることである。

 第3回で詳しく述べたように、それがポジティブであれネガティブであれ、キャンペーンのメッセージは、聞き手である有権者にとって意味のあるもの、「わたくしごと」でなければならない。

 たとえば、いくら対立候補が親友から金銭を騙し取るような人物だったとしても、それだけでは有権者にとってはあまり響かない。なぜなら、自分に関係ないからだ。しかし、さらに一歩踏み込んで、「親友からもお金を騙し取るような人物であり、市民の税金を身内の企業に吸い上げてきた」とまで言えるとすれば、それは効果的である。ここでのステートメントが、「市民の税金=私の払ったお金」を通じて、聞き手にとって「わたくしごと」化されるからだ。

 ましてや、候補者間で「あいつは公開討論の際にこんなルールを守らなかった」などと声を上げたところで、あまり効果がない。多くの有権者にとって、そんなことは自分に価値を持たない情報だからだ。あえて言うのであれば、だから何なのか、それが聞き手である有権者にとって何を意味するのかに触れなければならない。

 また、そうした主張が必ず客観的な事実で裏付けされている必要がある。

 裏付けのないネガティブキャンペーンで相手を攻撃したところで、それが論破されてしまえば、かえって対立候補に利するかもしれない。あるいは、無根拠に攻撃をした、みずからの陣営に災いとしてかえってくるかもしれない。すべての主張について、それを裏付ける根拠を明示して、議論できることが重要である。

 リビングストンは元職の候補者であったため、過去の市長時代に何をしてきたかが行政の膨大な証拠として残っている。ロンドン議会における個別の政策に対する政策議論はもとより、市長としての行動の記録、政治資金の記録など、ありとあらゆるデータが残っている。

 この山のようなデータを活用しない手はない。前回の冒頭で「ケン vs. ケン」の動画について触れた。そこで使われた市長時代のリビングストンの発言は、まさに、ロンドン議会における発言録からとられたものが多い。

 リビングストンに対するネガティブキャンペーンを見ても、「わたくしごと」化と客観的事実の裏付けがなされていた。リビングストンの過去の実績として、市民の払った税金が無駄遣いされたこと、市民への公約が反故にされたこと、市民が嫌うボブ・クロウ(Bob Crow)というロンドン地下鉄の労働組合のトップが市政に大きな発言権を持っていた事実を常に添えたうえで、「リビングストンは信頼できない」というメッセージを打ち出していたのだ。

 最後に、ネガティブキャンペーンは候補者本人ではなく、ほかの人間によって行われることが重要である。

 米国ではこうしたネガティブキャンペーンをする人物は「代理人」と呼ばれている。自身をアピールするポジティブキャンペーンでは、当然ながら候補者本人がその先頭に立たなければならない。そして、ポジティブキャンペーンの効果が薄らぐことのないよう、ネガティブキャンペーンは候補者本人ではなく、代理人から行われる必要があるのだ。

 ポジティブキャンペーンとネガティブキャンペーンは、規律をもって明確に分けられなければならない。実際の選挙戦でも、対立候補に対するネガティブキャンペーンは、ボリス本人が関知しないところで行われた。それらはあくまでも、候補者であるボリスのメッセージではなく、草の根の活動家や評論家という人々の声としてキャンペーンが行われたのである。

 ネガティブキャンペーンと聞くと、たしかに響きは悪い。しかし、こと選挙においては、有権者にとって意味のある事柄であり、客観的な事実の裏付けを持って対立候補に説明責任を求める活動は、健全な民主主義に貢献する部分もあることも事実である。