●人材マネジメントをめぐるザッポスの挑戦

 オンライン小売企業ザッポスのCEOトニー・シェイは、数多くの優れた変革者の中でも最も新しい存在だ。お金より意義が大切だと公言する、伝説的な経営者である。ベストセラーとなった著書の題名「幸せを届ける」(Delivering Happiness)が、そのビジョンを雄弁に物語っている(邦訳『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』)。

 最近シェイの取った行動は、カリスマ的リーダーシップに付きまとうある種の葛藤を引き起こした。彼はザッポスにおける管理職の廃止を伝えるメモを、普通ではない提案と共に従業員たちに届けた(メモ全文を載せた英語記事)。Reinventing Organizationsという経営書を読むよう求め、そこに書かれている組織体制への移行に賛同できない人には、給料3カ月分の退職金と共に去るよう告げる内容だった。この本は、上司不在で自己管理と自己組織化による組織体制を実現する「ホラクラシー」に関するものだ。

 退職をボーナス付きで奨励する制度はザッポスでは以前からあり、自社に満足しないかもしれないと感じる新入社員に対して適用されてきた。極めて寛大な方針である。ただし今回注目に値するのは、全従業員の14%に当たる計210人がこの提案に同意したことだ。方針の特異性がそのまま示された格好となった。

 同時に、シェイは変革を進めるリーダーが直面する大きな障害を乗り越えるために、従来から知られている方法を使ったともいえる。これはザッポスの文化に対する彼の一貫したコミットメントを物語る。すなわち従業員に選択肢を与え、賛同しない場合どうなるかを示したのだ。

 残留した86%の従業員は、お金よりも高次の目的を選んだと感じることができる。つまり退職金よりもホラクラシーに一票を投じた。シェイは誰ひとり解雇せず、従業員からそれを委託され、今後の選択肢も残しておけるわけだ。この実験が成功したあかつきには、またもビジョナリーとして称賛されるだろう。たとえ失敗しても、組織の階層化と管理に向けて振り子を戻すことは簡単だ。

 シェイに心酔する人はこう推測するかもしれない。退職に同意した人は、権力欲が強くみずからの影響力を失うことに我慢ならなかったマネジャー、あるいはヒエラルキーを安全な隠れ蓑にしてきた、能力の低い人だろうと。慎重派はこう考えるかもしれない。退職者はこの変革が会社のためにならないと考えたか、シェイの動機に不信感を抱いた人、あるいは他社からより良いオファーを受けた人や、退職金を元手に起業しようという人であると。

 さらに別の可能性もある。退職した人は優能なマネジャーの下で働いていたが、その上司を失うことになり、自身のキャリアの先行きが怪しくなると考えたのかもしれない。優れたマネジャーは、自己管理体制が目指すのとまったく同じことを行うものだ。つまり部下に自由を与え、最高の成果を引き出し、その過程で成長を促す。ザッポスの残留組と退職組の割合は、最近のギャラップの調査結果と対照的だ。管理職の90%はマネジメント能力に乏しく、有能な人はせいぜい10%だという。とはいえ、自己管理は必ずしも万能薬ではない。