候補者を比較するキーワードを抽出し、多用する

 このように、ボリスのメッセージでは「良いメッセージ」の4条件が満たされている。

 ただし、実際の選挙戦においては、このメッセージを一言一句覚えている有権者はほとんどいないだろう。多くの有権者にとって、街角で耳にしたり、ビラを手に取ってちらっと読んだり、一本の電話で言われたりによって選挙当日まで覚えておくには、メッセージが長すぎるからだ。

 そのため陣営では、メインメッセージとサブメッセージに含まれているボリスとリビングストンを対比させる言葉を、候補者を比較するキーワードとして抽出した。そして、2つのキャンペーン活動で使われる1つひとつの語り口(narrative)の中に一貫して埋め込んでいった。

 具体的には、ボリスのポジティブキャンペーン活動では、「前進(forward)」「前向きな政策(positive plans)」「実行(deliver)」「節減(saving)」「減税(tax cut)」「すべてのロンドン市民のために(for all Londoners)」というキーワードが多用された。それに対して、リビングストンへのネガティブキャンペーンでは、「後退(backward)」「古く変わり映えしない政策(same old policies)」「破棄(break)」「無駄(wastes)」「増税(tax rise)」「彼のとりまきのために(for his cronies)」というキーワードが繰り返し使われた。

 これらの対比的なフレーズの少なくとも一方が、メインもしくはサブのメッセージに含まれている。一貫したメッセージとサブメッセージの構成に照らして、それらがキーワードで示されているのである。

 現実の選挙が、同じ条件で行われることは二度とない。そのため、これらのメッセージが他のメッセージと比べて、どれほど効果があったかはわからない。

 ただ少なくとも、「良いメッセージ」の4条件を満たした、計算され尽くしたメッセージ設定であることは確かである。そして、このようなメッセージはすべて、単なる「思いつきで裏付けのないメッセージ」ではなく、論理とデータで裏付けられた有権者への「問いかけのメッセージ」として、いつでもその根拠が示されるよう準備されていた。

 次回は、選挙におけるネガティブキャンペーンが、忌避されるべきものとして語られるなかで、クロスビーがそれをどう捉えているのか紹介したい。

 次回更新は、9月4日(金)を予定。