いかに適切なトピックを設定するか

 条件4では、具体的には4つの問いを立てて検討するとともに、その定量的な判断のためには、候補者のどんな属性が有権者の実際の投票行動との相関が高いのかを分析することが重要であると前回述べた。

 ボリス陣営ではこうした分析に基づいて、まず広く有権者全体について、人物面では、「信頼」(trust)が実際の投票と結びつく重要な属性であると分析していた。これは、候補者に関する1つ目のサブメッセージが「信頼」を軸に構成されていることと符合している。

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4条件を満たすボリスのメッセージ

 また、ボリスのポジティブキャンペーンを効果的に実施すべく、有権者層ごとの政策面での分析もなされた。まず、ボリスのベース層を固めるためには、「犯罪への取り組み、ロンドン経済の成長、ロンドンオリンピックの成功」が政策的に重要だと把握していた。次に、スイング層の投票行動との相関が高いものを検証した結果、「税金の費用対効果の改善、交通インフラへの投資、雇用創出、住宅事情の改善」の4つの政策が重要であるとわかった。

 政策に関する2つ目のサブメッセージを読んでみると、そこにはベース層を固めるためのメッセージと、スイング層を取り込むためのメッセージが散りばめられていることがわかる。また、ボリスの9ポイント・プランを読むと、そこで挙げたすべての政策領域が、そのプランの中で明確にコミュニケーションされている。

 さらに、ボリスにとってのアンチ層であり、リビングストンにとってのベース層についても政策面での分析が行われ、リビングストンがベース層を固めるために重要な政策が、「運賃値下げ」であることも掴んでいた。

 メディアでは、クロスビーは「くさび(wedge)戦略」を用いて、対立候補の支持層を切り崩すと言われている。くさび戦略とは、対立候補の支持層を分断するようなメッセージをくさびとして打ち込むことだ。クロスビー自身がそれをくさび戦略だと認めるかは別として、「リビングストンが主張する運賃の値下げには、それに見合う財源がない、リビングストンはそれを実行することはできない」というメッセージには、そのような効果があったであろう。

 リビングストンの運賃値下げの公約とはまさに、彼にとってのベース層を固めるための政策であり、伝統的な支持層にアピールする政策である。その政策に重大な疑義をつきつけることは、ベース層に迷いを生じさせる。冒頭で紹介したように、選挙を前にした彼の発言と彼が市長であった時代の矛盾を対比させながら疑義を呈することで、その効果がより高まるのである。

 リビングストンのベース層は、こうしたキャンペーンに触れたところで、おそらくボリスに投票することはないであろう。しかし、彼らが投票所に行かなくなったということは十分にあり得る。