財団理事は自社で多数を占め、投資審査は自社が主導権を握るが、課題解決を行うのは、あくまで各分野の専門家が担当するプロジェクトである。特に、灌漑技術(保水ポリマーの利用)と普及活動、学校への浄水施設建設による教育振興、水教育の普及などを主な領域とする。

 その本質は、自社ができる範囲で寄付やボランティアを行うのでなく、外部専門家と連携し彼らを主役とした、社会的投資の制度枠組みを作ってしまう点にある。自社の活動(名を冠した財団)が、公的な存在として海外の遠隔地で貢献する。それが、自社を知らない海外市場の消費者コミュニティとの深い結びつきを広げ、自社のファンとなる顧客創造につながるという考え方である。

 さらに、FEMSAはコロンビアで難しい社会課題の解決に参画している。コカ・コーラFEMSAは、2003年に同国のコカ・コーラボトラーの買収チャンスをつかんで市場参入した。そこで直面したのが、過去40年に及び現在も続く内戦とその傷跡である。コロンビアの人口はおよそ4,500万人だが、過去20年間だけでも7万人が死亡、数万人が行方不明となり、300万人以上が家を追われて避難を余儀なくされた。

 近年は、政府による武装解除投降プログラムなど和平の推進もあり、情勢が一時期よりも安定に向かっている。しかし、5万人以上いるとされる投降したゲリラは、教育や人脈もない中で安定した職が持てず、その社会復帰が新たな社会課題となる。また被害を受けた市民が多い中で、ゲリラに対する社会的な恐怖と憎しみは消えず、社会的な分断も大きな問題とされる。さらに政府の取り組みに公に協力すれば、ゲリラの報復を招く恐れもあり、企業の協力は進まなかった。

 このような状況で、同社は2009年から民間企業として初めて、コロンビア政府が推進するゲリラ武装解除プログラム(元ゲリラと被害者の融和と国民の再統合)への支援を決めた。その核は、投降したゲリラと内戦の被害者が経済的に自立していくためのビジネス教育である。具体的には、従業員が無償の教師役となってプログラム参加者に起業教育を行った。プログラムは、同じ教室で元ゲリラと被害者が一緒に学び合う場となる。

 卒業生は、衣服・サンダルや物流パレットといった簡単な製造業などで自ら起業し、FEMSAは彼らを工場のサプライヤーとして活用する。また一部は、ビジネススキルを身につけた従業員として、工場で雇用される。

 さらに2012年からはメキシコの名門大学、モンテレイ工科大学を巻き込み、遠隔IT教育のプラットフォームを立ち上げた。現在では4つの地方自治体が協力して遠隔ラーニングセンターが地方に展開し、取り組みを各地に広げている。2014年時点で、この取り組みの受益者は約2,000人に到達する。そしてFEMSAの行動に触発され、現在では多様な業種の企業が、同様に政府のプログラムに協力する流れが生まれている。

 FEMSAにとってこの取り組みのリターンは2つある。1つには、社会の安定と経済発展を推し進めることで、市場が安定成長しそのパイを得られることである。実際に同社は、首位を確保する飲料事業に加え、最近になってCVS(OXXO)のコロンビア展開を始めた。

 そしてもう1つには、起業のサイクルが、地方を含め整備されていないサプライチェーンの強化につながり、事業展開を容易にするエコシステムが構築される点である。