星野リゾートが提供する「良いメッセージ」
これら「良い選挙メッセージ」の4条件は、ビジネスでは、どう適用することができるだろうか。もちろん、個別の業界やブランドの置かれた状況により、1つひとつの重要性やアピールの方法は変わるが、この4条件はどれもビジネスでも使われているものだ。
その成功例として、星野リゾートのリゾナーレ八ヶ岳のメッセージを検証してみたい。
リゾナーレ八ヶ岳のメインターゲットは、末子が小学生以下のファミリーである、と言われている。そして、星野リゾートのウェブサイトにはこのように書かれている。
第1の条件である「選択の定義」とは、ビジネスのブランド戦略における「ブランドプロミス」であろう。「日本を代表するデザインホテルはお洒落な宝箱」と、リゾナーレ八ヶ岳に行くことで得られるもの、すなわちブランドプロミスを定義している。そのうえで、第2の条件を満たしながら、「お洒落な宝箱」「極上の休日スタイル」「心躍ります」と感情にも訴えかけてくる。
さらには、第4の条件である適切なトピックに関して、「大波が寄せるプール」とターゲットであるファミリーの子どもが期待する内容を入れ、「高原イタリアンにスパトリートメント」と大人も楽しめることを強調することで、「ファミリーも惹きつけるアクティビティ」とファミリーが一緒になって楽しめるという、まさにターゲットを意識したトピックを挿入している。
星野リゾートの例では、4条件のうち、1、2、4の条件を使うことで、リゾナーレ八ヶ岳へと誘っている。一方で、第3の条件である「過去の実績と将来を提示する」における「過去の実績」は示されていない。この部分はやはり、個別の業界や商品・サービスの置かれた状況に依存する部分であろう。
旅行業界の場合には、政治とは異なり、それなりに信頼された消費者の口コミ市場があり、消費者はそこで自発的に比較検討する。たとえば、トリップアドバイザーやじゃらん、楽天トラベルなどで、リゾナーレ八ヶ岳は消費者の口コミ評価で高評価を得ている。また、テレビや雑誌で頻繁に取り上げられてきたPR効果もある。これらは、顧客満足度を星野リゾートがみずからのウェブサイトでアピールするよりも効果的だろう。
その一方で、客観的と考えられる評価や指標がある場合には、より直接的なアピールが増える。たとえば、アート引越センターはオリコン社の顧客満足度調査での引っ越し会社の総合1位をアピールしているし、ソニー損保はダイレクト自動車保険での売上1位をアピールしている。
次回は、ボリス陣営が実際に用いたメッセージについて、この4条件に照らして検証したい。
次回更新は、8月28日(金)を予定。