条件4:適切なトピックを取り上げる

「良い選挙メッセージ」の条件の4つ目は、適切なトピックを、選挙の争点(選択基準)として取り上げることだ。いくら選択基準を定義して、感情に訴えかけ、自身の実績と将来を提示したところで、肝心の選択基準が的外れでは意味がない。

 では、適切なトピックとは何か。クロスビーは4つの問いを立てて、あるトピックが選挙戦の文脈で取り上げるに足るかどうかを判断する。

 1つ目の問いは、そのトピックがそもそも顕著なものかどうかである。これは、新聞の一面で取り上げられるようなトピックなのかどうかを意味する。

 2つ目の問いは、そのトピックは有権者個人にとって意味のある「わたくしごと」かどうかである。いくら新聞の一面で取り上げられるようなトピックであっても、多くの有権者にとって「対岸の火事」では意味がない。投票するのは有権者であり、有権者にとって「わたしごと」化されていないトピックでは、有権者は投票しない。

 3つ目の問いは、そのトピックで政治的に差別化が可能かどうかである。どれほど大事なトピックでも、結局のところ、対立候補も同じようなことを言うのであれば、有権者にはその差がわからない。差別化ができなければ、それを理由に投票はしてくれないのだ。

 4つ目の問いは、これまでの3つの問いを含めた最終確認のような問いだが、実際の投票の瞬間に、投票ブースで影響を与えられるトピックかどうかである。言い換えれば、どれほど大きなトピックで、有権者の「わたくしごと」であり、候補者の意見が分かれていても、それが投票先を決める要素にはならないトピックもある。

 たとえば、女性の社会進出は、新聞の一面で取り上げられるトッピクで、かつ多くの働く女性にとって「わたくしごと」であるが、候補者それぞれが異なる政策を打ち出していたとしても、それを基準に国政選挙の投票を決める女性は少ないのではないか。政策そのものは重要だが、他の政策をより重視している可能性がある。「わたくしごと」ではあるが、投票のその瞬間、それほど困っていないかもしれない。そもそも、国の政策で大きく状況が変わるとは思っていないとも考えられる。

 これらの4つの問いは、感覚や論理としては理解できる一方で、実際問題として、どう見極めるかは難しいと感じられるのではないか。

 世論調査によくある、「明日、選挙が行われるとした場合、あなたが投票を決めるうえでもっとも重要な政策は何ですか」という問いは、ほぼ無意味であるとクロスビーは言う。

 先述した通り、ほとんどの有権者は個別の政策で投票を決めるわけではなく、政策はあくまでもその情報の1つとして、過去の実績や言動、人柄なども含めて、もっとも期待できる候補者や政党に投票している。つまり、政策の重要度がそのまま、投票を決める政策とは限らないのである。

 たとえば、リビングストンが掲げた「公共交通機関の運賃の値下げ」は、多くのロンドン市民にとって「わたしごと」であり、世論調査でも公共交通機関の運賃が「もっとも重要な政策領域」として上がっていた。にもかかわらず、ボリス陣営はそれが投票行動には結びつくトピックではないと判断していた。なぜなら、ボリスのベース層やスイング層の有権者は、世論調査での彼らの投票意図と「運賃値下げ」に対する候補者の評価が連動していなかったからだ。

 そのため選挙ストラテジストには、政策や候補者の人格や能力など、候補者にまつわるあらゆる属性を分析して、どんな属性が実際の投票行動ともっとも相関が高いのかを分析することが求められるのである(詳細は次回)。