日本企業が忘れかけている
ダイナミック・ケイパビリティの戦略学

 さて、このような共特化の経済性原理に基づく既存の固有の資源や資産の再構成、再配置、そして結合の戦略は、日本企業にとって決して新奇なものではないように思える。

 かつて、日本企業が様々な電化製品を海外に輸出したり、現地生産したりしたとき、日本企業は多くの異質な海外市場に出くわした。そのとき、各国固有の特徴に自社製品を適合させるために、製品の基本設計と現地固有の条件を様々な形で結合させていた。この日本企業の柔軟な変化対応能力もまた共特化の経済原理にもとづくダイナミック・ケイパビリティであったように思える。

 これに対して、当時、米国の自動車業界は日本市場の特徴を無視し、米国市場で販売していた左ハンドルの自動車をそのまま硬直的に日本に輸出していた。車内のコイン入れも米国の1ドルコインを対象としていたため、日本のコインには対応していなかった。それゆえ、このような米国の自動車を購入する日本人はほとんどいなかったのである。そこには、共特化の経済性はなかった。当時の米国企業には、ダイナミック・ケイパビリティがなかったのである。

 残念ながら、この同じ状況に日本企業も陥っていたように思える。日本の最新の商品は、世界のどこでも魅力的で売れるという根拠のない自信のもとに、日本企業は硬直化していたように思える。しかし、近年、円安を契機に日本製品の輸出も増加し、日本の家電業界も各国の特殊性を考慮した形で共特化した製品を再び製造しはじめ、そして売れているという。このような能力こそが、ダイナミック・ケイパビリティなのである。

 さらに、近年、デジタル・カメラの発展によって危機に陥っていた富士フィルムが編み出した液晶画面とそれを保護する特殊フィルムの関係にもまた、共特化の経済原理が働いているように思える。また、日本国内でのユニクロとビックカメラのコラボである「ビックロ」の試みも興味深い。これは、1つの建物の中にユニクロとビックカメラが共存する戦略であり、日本に観光にきた外国人をターゲットとするものである。果たして、この特殊な結合に共特化の経済性があるのかどうか。

 そして、ゲーム業界の雄である任天堂がソーシャル・ゲーム会社のDeNAと資本提携し、任天堂がソーシャル・ゲーム市場に参加する試みもまた興味深い。さらに、最近、電車の各駅の売り場にローソンやセブンイレブンなどが出店するという電鉄とコンビニのコラボも面白い。これらの新結合に共特化の経済性があれば、この特殊な結合もまたダイナミック・ケイパビリティに基づくものであろう。

 以上のように、日本企業が忘れかけていたダイナミック・ケイパビリティを意識的に駆使すれば、日本企業の世界での復活は近いと思う。
 

参考)
『ダイナミック・ケイパビリティ戦略――イノベーションを創発し、成長を加速させる力』デイビット J.ティース著、谷口和弘、蜂巣 旭、川西章弘、ステラ S.チェン訳(ダイヤモンド社、2013年)