第1に、サボラの展開は中東周辺に偏っており、あくまで投資家として目利きが通用しやすい範囲への展開を優先している。経済発展段階、宗教、文化がある程度似通った市場にフォーカスしている点は、投資の期待リターンを一定に保つ上で重要である。

 第2に、条件が母国と似通った国への進出であっても、ローカル化を徹底している。具体的には、必ず合弁を組むなどして、ローカルパートナーの販路と知見を活用する。また食品事業においては、進出先の国ごとの嗜好の違いに合わせ、同じカテゴリーでもきめ細かく個々にブランドを変えて展開している。

 第3に、幅広い事業に投資し実験を続けるために、ふさわしい組織形態を持っている。サボラの本社は持株会社で、その下には食品・小売・その他事業の3つに分けて、各グループ企業がぶら下がる。そしてそれぞれの事業特性に応じて、組織の形をたくみに設計している。

 たとえば食品事業(食用油)では、国ごとの流通構造や嗜好性へのカスタマイズが重要となる。そのため性質が異なる成熟市場と発展途上市場で2つの別の統括会社を作り、それぞれに各国単位の組織をぶら下げている。

 一方で、製糖事業では、企業向けと消費者向けでマネジメントを分ける組織構造となっている。また、3つの事業とは別に、合弁への投資だけ行い経営には自らタッチしない事業カテゴリーも明確に分けて持っており、投資家的な企業哲学が明確になっている。

 サボラの海外戦略には、「強み自体を海外で獲得する」(capability seeking)という行動原理がある。彼らは自社の強みにこだわらず、むしろ買収などを通じ強みを獲得するために海外進出し、その強みを母国市場での競争優位にもつなげる。

 このタイプで可変性が高い企業は、進出先の事業機会と獲得リソースに応じて、強みも事業領域さえも柔軟にどんどん変化させる。このような企業の強みの源泉は、リスクを取れる投資のマネジメントと、新しい強みを進出先から持ち帰り移転する吸収能力である。

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 今の環境を所与として市場を分析し、自社の強みとの交点を見つけて事業プランを決め、決めたらその通り実行を試み失敗は許されない。多くの企業ではそのような事業マネジメントが主流を占めているのではないだろうか。

 一方で、変わり続けることで競争力を磨く企業は、カメレオンのように戦略と強みを転換することで「成功の復讐」に陥らないしなやかさを保つ。不確実な環境で勝ち残るためには、実行する中で動的に戦略が進化していく流れこそが重要となる。

 多くの日本企業に今必要なのは、海外展開を通じて自らの強みを絶えず再定義し進化拡張させること、そして買収・進出先から本気で強みを移転する組織サイクルを構築すること、この2つの面の可変性である。

参照)
Indofood Website, Annual Report等
Jollibee Foods Website, Annual Report等
Savola Group Website, Annual Report等
土屋一樹(2013).『中東アラブ企業の海外進出(アジア経済研究所叢書9)』 岩波書店.
タルン・カナ、クリシュナ・G・パレプ(2012). 『新興国マーケット進出戦略―『制度のすきま』を攻める』 日本経済新聞出版社.
Bartlett, C., & Beamish, P. (2011). Transnational management (6th ed.), New York, McGraw-Hill Education.
Chattopadhyay, A., Batra, R., & Ozsomer, A. (2012). The new emerging market multinationals: Four strategies for disrupting markets and building brands. New York, McGraw-Hill Education.

Cuervo-Cazurra, A., & Ramamurti, R. (eds.) (2014). Understanding multinationals from emerging markets. Cambridge, Cambridge University Press.
新聞雑誌記事(英語・日本語)