3:あらゆる戦略は信条やミッションに従う

 キャンペーン戦略といえども、何でもありのフリーハンドではない。キャンペーン戦略という手段よりも、上位の「目的」がある。選挙の世界では、候補者の価値観や政治信条、それらに基づく基本政策などと呼ばれる。これはビジネスの世界において、企業のミッションや価値観などと呼ばれるものである。

 私が英国で保守党の政治家やその卵と議論をしているとき、過去の労働党政権やリビングストンの政策に話が及ぶと、彼らが感情的になることが多々あった。

 たとえば、選挙対策本部での直接の上司と話をしていたときのことである。リビングストンが公約として掲げた運賃値下げに関して、何も知らない私が純粋に「でも、そんな財源を彼はどこから確保しようとしているのでしょうか」と聞いてしまったことがある。彼はやや語調を強めて、「そんな財源はないし、リビングストンは過去の市長時代に、二度も運賃凍結の公約を破棄して値上げをしながら、まだそんなことを言うのか」と憤慨していた。

 それはおそらく、労働党の政治家やその卵についても同じことだろう。みずからが何を代表しようとしているのか、信じていることがあるからこそ、感情的になれるのである。逆に、みずからが信じる価値観や政策もなく、ただの選挙マシーンとして当選することだけを考えているのであれば、あそこまで感情的になることはできないはずである。

 キャンペーンやキャンペーン戦略とはあくまでも、それらを実現するための手段にすぎない。「これが逆転すると、価値観や政治信条は一貫性を失い土台が揺らぐ」と、クロスビーは強調する。そして、その土台が揺らげば、キャンペーン戦略も実際のキャンペーンも一貫性を失い崩壊してしまう。物の道理としても、結果ありきの考え方としても、あくまでも目的が先に来て、手段が後で来なければならないのである。

 ビジネスではたとえば、スターバックスのミッションは「人々の心を豊かで活力あるものにするために-ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」である。

 日本法人元CEOの岩田氏は、「ミッションを守り育てながら、成長を持続していくために」急速な新規出店による規模拡大を避けたと語る。また、「(会社のミッションを体現する)ブランドを伝える一番の手段は店舗」という考え方から、マスメディアを使ったブランド構築をしていない。もちろん、企業のミッションは時に時代に合わせて変わるものであるが、そこには、ブランド戦略を規定する上位概念としてのミッションの存在が意識されている。

 以上、3つの共通点を押さえたうえで、次回は、「Who-What-How」という全体の戦略的フレームワークの中で、クロスビーがいかにしてロンドン市長選挙のターゲットを定めたのかに焦点を絞って議論する。

 次回更新は、8月15日(土)を予定。