選挙とビジネスの成功を左右する3つの共通点

 第1回はまず、私が異国の首都で選挙対策本部の一員として働くこととなった経緯とクロスビーの背景を簡単に紹介したうえで、選挙とビジネスの間の3つの本質的な共通点を解説したい。

 では、その共通点とは何か。

 1つ目は、選挙のキャンペーン戦略にもビジネスのブランド戦略にも、共通して、「Who-What-How」というフレームワークが適用できるということだ。2つ目は、選挙もビジネスも、良い候補者・政策や良い製品・サービスだけでは足りず、こうしたキャンペーン戦略やブランド戦略があって初めて成功がもたらされるということ。そして3つ目は、それらはいずれもフリーハンドではなく、より上位の政治信条や企業としてのミッションの範囲の中で、一貫性を保って立案される必要があるということである。

 それぞれを順にひも解いていく前に、私が本稿を執筆するに至った経緯と、リントン・クロスビーがいかなる人物なのかを簡単に紹介させていただきたい。

 2009年から2012年の3年間、私は政治・政策を学問と実務の両面から学ぶために、経営コンサルティング会社を休職していた。

 純粋に政治・政策に興味を持っていたことに加えて、ビジネスの考え方がどこまで政治や政策にも適用できるのかも学びたいと思っていた。また、ビジネスのゲームのルールを定める規制の背景には、往々にして政治・政策の意図があり、それが決まるダイナミクスを知ることで、みずからの見識を深めることも期待していた。

英国滞在時、首相官邸の前にて撮影

 2009年から2011年の2年間は米国のコロンビア大学と英国のロンドン大学政治経済学院(LSE)の公共経営学修士コースで、学問的な観点から日本と英国の政治の違いを学んだ。そして、2011年からの1年間は、当時の英国の連立与党第一党であった保守党にて、党本部、選挙対策本部、議員秘書などさまざまな現場で働いた。

 保守党本部では、保守系の政治エリートの登竜門と言われる調査部において、広報活動のための政治・政策調査を行った。2012年5月のロンドン市長選挙では、現職候補のボリス・ジョンソンの選挙対策本部で、マニフェスト作成から公開討論会のためのブリーフィング、対立候補者分析など選挙対策の中枢を担った。さらには、保守党のリースモグ下院議員の議会秘書として、委員会活動や法案修正のための調査、選挙区有権者からの陳情対応を支援した。

 2012年、ボリス・ジョンソン現職候補の選挙対策本部で指揮をとっていたのは、オーストラリア出身のリントン・クロスビー(Lynton Crosby)である。彼はオーストラリアの中道右派政党の自由党(Liberal Party)の選挙ディレクターとして1996年、1998年、2001年、2004年の総選挙で自由党の勝利をもたらし、ジョン・ハワード(John Howard)首相による長期政権の確立に大きく貢献した。

 2005年からは英国に活動の重心を移し、同年の総選挙では野党保守党の選挙を指揮して労働党に敗北を喫したものの、その後、再び成功を勝ち取ってきた。

 2008年と2012年のロンドン市長選挙では、ボリス・ジョンソンの選挙対策本部で指揮をとり、労働党優位と言われるロンドンで保守党候補のジョンソンを市長へと導いた。その実績を引っ下げて挑んだ2015年の総選挙では、再び保守党の選挙活動全体の一切を取り仕切った。そして、単独過半数政党のないハング・パーラメントが確実、さらには労働党有利と言われた選挙において、保守党の単独過半数獲得を実現させて注目を浴びた人物である。