「信じること」より大切な「頼る」ということ

尾原:『ALLIANCEアライアンス』の「まえがき」で篠田さんは、「『信頼』という人間の本源的な資質に根ざしている」と書かれています。たしかに、信頼は生来持っている欲求かもしれません。でも、それをやるには意思が必要だと思うんです。シリコンバレーのような変化に即応しなければならない世界では、多様性が必要です。多様性がないと、変化に対して敏感な人を揃えられないからです。Googleのラリー・ペイジもできないことはたくさんある。さまざまなバックボーンがある人間を揃えたほうが、変化に対してやれることが増えるからです。でも、多様性のある社会を認めることは、安心な社会ではなくなります。だから、信頼がデフォルトというゲームのルールを作るしかない。Googleが「グーグリー」という言葉を大事にしているのをご存知ですか。

篠田:「Googleらしい」というニュアンスですよね。

尾原:そうです。どんなに頭が良くても、どんなにネットワークを持っていても、すべての面接官が「グーグリー」と認めない限り、Googleには入れません。Googleは徹底的にボトムアップを重視する会社なので、すべての情報が共有されます。その情報をもってGoogleの世界観を実現するために、それぞれが勝手に動き回って成果を出す仕組みです。信頼というゲームのルールが崩れると、ボトムアップが壊れる。だから、意思を持って信頼するしかないんです。相手を疑うことはコストです。今のようなスピードが命のビジネス社会では、疑うコストを払っているようでは取り残されます。早くやった者が強くなり、早く御旗を立てた人間に情報が集まるからです。信頼することがゲームのルールであると決めてしまってほうが、疑うことによる遅れを回避することができる。だからこそ、最も利己的な人間は利他的になるべきなんですよ。

篠田:人は、世の中やメディアのムードを見て、自分の生きる態度を決めがちです。今の日本では信頼というムードは薄いですよね。疑いの目を持ったほうが頭が良さそうに見えますから。また、信頼するといっても相手に無私の心で奉仕し過ぎると、自分が疲弊してしまいます。それでは立ち行かなくなる。持続的でお互いにとって良い利他のあり方を理解すると、ムードに流されず信頼することができるようになってくるのかもしれませんね。

尾原:そう思います。信頼を分解すると、信じることと頼ることになります。疑うことしかできない人は、頼ることができないんですね。頼ることは、自分の弱さや足りないところを相手に見せることですから。でも、足りないことも魅力に変えたほうがいいんじゃないでしょうか。その代表例がソフトバンクの孫正義さんです。彼はスーパーマンのように見えますが、自分が足りないものを見せて仲間をつくっています。その最たるものが髪の毛なんですね。孫さんはそれを笑いに変えることで、周囲からの愛を得ている。信じることの前に、もっと大事な頼る勇気も持っているんです。残念ながら、これを持てない人が多い。日本は同質性が高く護送船団の社会だから、個人と個人の関係の中で頼る、頼られるという関係性を築く必然性がなかったのでしょう。