いい質問をすることは“give”である

篠田:お話しを伺うと尾原さんがどうしてその会社を選んだか、つまり個人から会社に求めるものは明確でした。逆に、会社側が尾原さんとアライアンス関係になろうとした理由についてはどんな印象をお持ちですか。

尾原:最初のうちは特殊技術ですね。僕はもともと、高校時代はプログラマーで、大学時代はサーバー管理者でした。大学には何もなかったので、自分でファイバーケーブルを引いてサーバーの設定をすべてやった。iモードをやるにあたって、当時のドコモはインターネット通信について詳しくありません。たまたま僕はアマチュア無線の経験もあり、大学時代には携帯電話の販売もやったので、ひと通りのことを知っていました。マッキンゼーで2年しか経験のない若造が、なぜドコモと個人契約できたのか。すべてが中途半端とはいえ、僕のほかに人がいないのでハブになれたんです。戦略は夏野剛さんや松永真理さんがつくりますが、細かい仕様に落ちてきたときに、必ずギャップが生じます。そのギャップを埋めるのが僕の役割でした。

 iモードの初期の画面は実は僕が書いているんですよ。僕にはいろいろな領域の専門知識があったので、それがアライアンスに活かせたということですね。

 もうひとつは、普通の人が経験しないプラットフォームをゼロベースから立ち上げる経験を積んでいるという強みです。よく僕がたとえるのは、オレンジ部隊と呼ばれるレスキュー隊や救命救急士です。オレンジ部隊は火事の現場に向かうと、火を消すのが大事なのか、人命救助が大事なのか、建物は諦めて延焼を防ぐのか、さまざまな領域の知識をフル稼働させて一瞬で判断を下します。救命救急医も同じ。内科や外科などあらゆる分野の知識をベースに、命を救うための最善の手を打ちます。人は死ぬ瞬間と生まれる瞬間が最も命が弱いといいます。

 事業の立ち上げも同じで、驚くほど簡単なことで事業は死んでしまいます。僕には事業に命を吹き込む作業の勘所が経験値として積み上がっていて、幸いなことにそうした経験を積んだ人が、日本には少ないんです。

篠田:特殊技術やプラットフォームを立ち上げる経験が強みの尾原さんが、冨山和彦さんのところ(CDI)に行ったのはちょっと異質ですよね。

尾原:この『ALLIANCEアライアンス』の本でも「互恵的」という言葉が使われているじゃないですか。冨山さんのところに行ったのは、まさに互恵なんです。新規事業系のノウハウやベンチャーへの営業サーチを提供する一方で、BS(バランスシート)や組織論を学ばせてもらいました。僕は、持っているスキルを相手に提供しますが、相手から得るのはお金ではなく「自分の成長」なんです。それを設計することを大事にしています。

 転職には「目的としての転職」と「手段としての転職」がありますが、僕がGoogleに行ったのは「手段としての転職」です。英語という、グローバルで生きるための技術を学ぶために、手段としてGoogleに入った。ただし、入らせていただくお礼としてメリットを提供しなければならない。そこで、日本でのモバイルの立ち上げという専門性とIT人脈を提供したんです。Googleは製品が優秀なので、その優秀な製品を最も使ってくれそうなところに持って行けば、ディールなんかすぐに成立する。僕にはその縁と目利きがあります。そうすると、自由な時間が増えるので、ほかのことをやるうちに新たな縁が広がり、目利きの力が積み上がっていく。いかに互恵的な形で「わらしべ長者」を作っていくかという設計なんですね。

篠田:設計という言葉を使われましたが、それに自覚的になったのはいつごろですか。

尾原:パソコン通信ですね。単なる神戸に住んでいる中学生なのに、素朴だけど質の高い疑問を提供すれば、大学の先生やゲームの大家が喜んで教えてくれたんです。その経験から、「いい質問をすることはgiveなんだ」ということがわかりました。さらに、これはマッキンゼーで徹底的に叩きこまれたことですが、経験のない人間が相手と互恵的でフェアな関係でいるためには、ファクトを提供することが大事だということです。そのファクトを変わった視点で提供すると、より喜ばれる。そうすることで相手から有益な情報が手に入るし、情報は発信している人のところに互恵的に集まるから、ひとつひとつの取引は小さくても、すべてを集めると途轍もなく大きくなるという経験をさせてもらったんです。

篠田:この本に書かれている「ネットワーク」的な発想を、すでに中学生のパソコン通信で体感されていたんですね。

(後編につづく)

※次回は7月31日(金)公開予定。

 

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