少し毛色の違う身近な商材として、たとえば製パンの世界でも新興国からグローバル企業が徐々に誕生しつつある。日配品であるパンは、サプライチェーンの維持と品質管理が事業継続にきわめて重要となる。ローカルな配送網と地域の嗜好に合った商品展開が欠かせないため、10年ほど前までは各国に複数の有力プレイヤーが並存する状況が続いた。当時は日本企業もそうした世界トップ集団に入っていたが、新興国では、より速いスピードで海外展開を猛然と進め、規模と収益性で飛びぬけた企業が登場しつつある。

出所:Bloombergよりデロイト トーマツ コンサルティング作成

 製パン企業で世界トップとなっているのが、メキシコのグルポ・ビンボである。同社は100以上のパンのブランドを持ち、167工場、240万販売拠点を展開、従業員数は13万人近い。米国・カナダ・メキシコ(シェア9割)、中南米、欧州に加え、近年は中国にも進出し22カ国に展開している。すでに売上の6割以上を米国を中心とした海外で稼いでいる。1945年の創業以来、メキシコ国内で着実に地歩を広げ、1984年から周辺国に展開を始めた。2011年に米国食品大手サラ・リーの北米製パン事業を買収したことで、展開を加速している。ほかにも、トルティーヤというラテンアメリカ特有の食材に特化したメキシコ企業のグルマも、世界の中で一定のプレゼンスを確保している。

 総括すると、多くの新興国消費財企業は、10~15年前には日本企業とは比較に値しない程度の、国内集中型の中堅企業だった。しかし2000年代から急速な海外展開を伴う成長が始まり、リーマンショックを経て、現在では売上規模で日本のトップ企業を大きく超える勢いを見せている。さらに、そもそも利益の水準が、日本企業と比べて圧倒的に高い水準にある企業が多いことも大きな特徴である。

新興国企業が示す新しい経営モデルの可能性

 新興国企業は、全てが海外展開しているわけではなく、母国市場にとどまる例も多い。しかし、少なからぬ数の企業が海外展開をスタートさせ、グローバルでの勝ち組消費財企業の一角を占め始めているのは事実である。グローバル展開という新しいステージに入ると、新興国企業も日本企業と同じように新しい壁にぶつかる。どのような企業にとっても、グローバル化には次のような難しさがつきまとう。

●異文化・遠隔マネジメントの難しさ
 海外のオペレーションや組織を遠隔コントロールするには、それなりの手法や仕組みが必要になる。相手の文化が違う場合は、さらにその複雑性は増す。多くの新興国企業は、企業としても海外展開についても、歴史が短く経験も浅い。

●不確実性の高さ
 新興国では、法制度・消費者(所得や年齢構成)・流通構造は常に変化するため、成功の方程式が常に大きく変わり続ける。新興国企業にとっても、自国の成功モデルが他の新興国全てに通用するわけではない。また、先進国市場で成功しようとすれば、これとはまったく別の勝ち方を開発する必要がある。

●ブランド認知の違い
 ある国で成功したブランドも、別の国では無名だったりネガティブな捉えられ方をしたりする。新興国企業の場合、海外ではブランド認知がなく、また「安かろう悪かろう」のイメージに苦戦することも多い。

 さらに、消費財や、その中でも固有の文化とつながりが深い食品・飲料を例にとると、別の難しさも加わってしまう。

●食文化・嗜好の違い
 消費者が嗜好で購入する商材、たとえば食品・飲料は国ごとに背景となる文化が違い、しかもその好みは簡単には変わらない。ある国で有効な食材やフレーバーも、別の国ではそのまま受け入れられないことが多い。

 グローバル展開では、多くの日本企業も似たような課題に苦労している。これに対して、新興国企業はどうやって海外展開を含めた急成長を実現しているのだろうか。これら新興国企業の台頭から、日本企業が学ぶべきこととは何だろうか。

 海外展開も含めて成功が著しい新興国企業を分析すると、興味深い特徴が浮かび上がってくる。

 我々は、勝ち組となりつつある新興国企業は、変化が激しい環境で勝つための新しい経営モデルの可能性を示していると考える。具体的には、彼らが持つずば抜けた嗅覚と経営手法が、4つのポイントに集約されると考える。これらはそれぞれ排他的ではなく、複数の資質をあわせ持つ新興国企業も非常に多い。

1.変わり続けることで競争を勝ち抜く
2.社外の現実を見据え、自ら変化をつくり出す
3.外部資源とネットワークを最大限に活用する
4.失敗することを前提に、それを強みに転化する

 次回以降、新興国企業の台頭がわかりやすい食品飲料業界の事例を題材に、これらのポイントを1つずつ解説する。新興国で苦戦しがちな日本企業にとって、見落とされがちな新しいライバルを冷静に見つめることは、新鮮な視点を与えてくれる。