安渕:優秀な人は、いろいろなことを体験して成長し、さらに優秀になる。優秀な人をさらに伸ばすには、環境を変えてあげるべきです。その人の能力よりも少し上の目標を的確に与えられるか。それが上司の能力になってきます。それをやるには、自分の組織だけでは無理です。あるレベルまで到達した優秀な人は、外に出してあげないと先に進んでいけません。ある事業部門に優秀な人を留めて、ずっと同じ仕事をさせていることが、会社にとってプラスになるとは思えません。

篠田:今のお話は、本当に優秀な人を望んでいる「渇望感」がベースにあるような気がします。一般にベンチャー企業には人材への渇望感があるので、会社と従業員ともにアライアンスの考えが抵抗なく受け入れられると思います。でも、多くの日本の大企業は知名度もあるし、ブランドもあって、応募者が大量に集まるせいか、その渇望感が見えません。そうなると、どうしても会社のほうがパワフルな存在になってしまう。世界のエクセレントカンパニーであり、日本企業よりブランド力があるGEが、優秀な人は去っていく、だからこそ優秀な人に投資をしてお互いに忠誠を尽くすことが必要だと考える原動力に興味が湧いてきます。

安渕:会社が成長するために必要な人材をどう見るかだと思います。そもそも、GEは大企業とは思っていません。小さな企業の集まりだと思っています。そのひとつひとつに競争力があって、ベンチャー企業に負けない機動力とスピードがある「塊」でありたいと思っているのです。だから「GEだから入りたい人が、本当に優れた人なの?」という疑問が湧くのは当然です。そのベースには、常に変化していないと生き残れないという切迫感があるのです。日本の大企業は、学生さんが知名度で来ることに危機感を持たないといけない。大企業が潰れない時代はすでに終わっているのですから。

篠田:日本の大企業は、終身雇用を保つことが社会的負託であり、義務だという前提で物事を考えようとしているように見えます。その負託を背負わされる経営者は辛いですよね。本当はGEのように戦略的な人事をしたいけれども、日本社会の大企業に対する期待との狭間でそこまで踏み込めないように見えます。

安渕:日本の電機産業で最近起こっていることを見れば、その負託を守れるとは思えません。実際、事業を切り出して同業他社と合併させることで新しい価値が生み出されているので、会社単位で雇用を守ることに意味がなくなっています。むしろ、ネットワークとして価値を生み出しているなかで雇用が生み出されるというルールに変えるべきではないでしょうか。

 企業は、雇用を守るために存在するわけではありません。顧客がお金を払って買ってくれるサービスや製品を作れるから存続することができ、存続できるから雇用が発生するのです。企業側のジレンマは確かにあると思いますが、顧客に価値を提供し続けるために、会社として従業員に誠意を尽くすことが重要です。(後編に続く)

※次回は7月24日(金)公開予定

 

【連載バックナンバー】
第1回:終身雇用はこれからも続くのでしょうか
    君島朋子(グロービス)×篠田真貴子(東京糸井事務所)