篠田:へえ、面白い。その人たちは、終身雇用モデルの企業から来ているんですか。

君島:そうですね。現在の状況に違和感があって変えたいと願う人、起業したい人などが半分。残りの半分は、今の会社が好きで、そこで活躍するためには知識やスキルが足りないから学びたいという人です。現場の実感としては、これから自分のキャリアを自ら作ろうとする人たちが増えてくると思います。そういう世の中になっていくでしょうし、そうしなければならないと気づく人も増えると思います。

 いま、女性社員を育成する上司向けに、効率的な働き方をするための環境作りが大切だ、という内容の教材を作ろうと考えています。その作業をしながら思ったのは、効率的な働き方を考える前に、そもそもアウトプットを出すつもりで毎日の仕事をやっていますかと問わなければならないということ。アウトプットを出すという前提があってはじめて、そのために効率的な環境を作ろうという話になりますよね。アウトプットを出すためではなく、与えられた仕事をこなしているだけの人が山のようにいる企業もいっぱいありそうに思うのです。

篠田:終身雇用を前提としたままでは、アウトプットに対する問題意識が働かないかもしれませんね。

アライアンスは企業と働く人の長期的な信頼関係を構築する手段

君島:もうひとつ思ったのは、個人と企業の契約と言っても、日本はあまりにも企業の立場が強い。アライアンスのような新しい契約関係が出てきても、企業側が有利になるような理屈に使われてしまう可能性が高いような気がしてしまうんです。

篠田 真貴子(しのだ・まきこ)
東京糸井重里事務所取締役CFO。
慶應義塾大学経済学部卒、1991年日本長期信用銀行に入行。1999年、米ペンシルべニア大ウォートン校でMBAを、ジョンズ・ホプキンス大で国際関係論修士を取得。マッキンゼー、ノバルティス・ファーマ、ネスレを経て、2008年10月、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する糸井事務所に入社、2009年1月より現職。2012年、糸井事務所がポーター賞(一橋大学)を受賞する原動力となった。この度、『ALLIANCEアライアンス』を監訳

篠田:それはあるかもしれませんね。企業がフラットな関係を志向すると言っても、両者の力関係がフラットでない場合ですね。

君島:ちなみに、私の部署では、この本の内容にかなり近いことをやっているんですよ。私が担当する部門はグロービスの講師が集まっている部署です。講師はひとりひとり独立して、我々も彼らがいなければビジネスができないので、グロービスと対等な立場での契約関係だと想定しています。お互いの信頼関係に基づいて、MBOや契約更改の場で毎期のミッションを定めています。でも、これは講師のパワーがあって、企業側もそれを理解しているからこそできることなんですけど。

篠田:それは面白いですね。どういう経緯で信頼関係が育ってきたんですか。

君島:グロービスでは他の仕事もされながら講師をしてくださっている方の中から、条件が合い、仲間になっていただきたい方をお誘いして、契約社員になっていただいています。そのとき、その方にもグロービスに来るメリットがなければなりません。個々の講師にご自分のやりたいことがあります。たとえば、ベンチャーをやりながら働く時間の半分を講師に充てるという方もいらっしゃる。この方に講師として安定的に働いてもらうために、これとこれができるようになっていただく、これを作っていただく、という契約関係を結ぶんです。このような形でおひとりずつ契約する内容をカスタマイズできるので、信頼関係がつくりやすいのかもしれません。