いいところは残す、変えるべきところは変える

 リーダーシップ論の大家であるジョン・コッターの新刊『ジョン・P・コッター 実行する組織』は、この大企業が組織変革を起こすための現実解を提示しています。それは既存のピラミッド型組織を維持しながら、スタートアップのような俊敏な動きが取れる仕組みを提唱しているからです。

 具体的には、本書では組織のデュアル・システムを提唱しています。一つの組織で2つの仕組みを動かすということです。1つは既存の階層型システムです。激動の時代には、変化のスピードに対応する俊敏な組織体制が必要です。だからと言って、過去の経験がまったく生きないわけではない。これまで培ってきた仕組みのいいところは残す。その意味で、大規模な組織運営として開発され実績を上げてきた階層型組織を捨てる必要はないとコッターは力説します。しかし、それだけでは時代の変化に対応できない。

 そこで2つ目のシステムを導入することが必須で、それはネットワーク型組織です。フラットで迅速な意思決定が可能となる組織形態の導入を勧めます。

 ここで注目すべきは、新たに導入するネットワーク型組織も、決して企業にとって馴染のない仕組みではないと主張している点です。どんな硬直化した大企業でも、生まれは果敢なベンチャー企業だったはずです。だからこそ、生き残っていまの大企業となったのです。そして、企業の創生期においては階層型組織など機能するはずもなく、どんな企業も最初はネットワーク型組織で運営し、俊敏な動きで事業誕生の礎を築いたのです。つまり、企業が大規模化するプロセスで置いてきてしまった、ネットワーク型システムを、大企業は取り戻せ、というのがコッターの主張です。

 デュアル・システムが機能する組織では、ベンチャーのような俊敏な動きと、大企業ならではの安定的なオペレーションの両立が実現します。

 そうはいっても、クロスファンクショナル組織の運営でさえ難しいのに、コッターの構想を絵空事とする人もいて当然でしょう。そのために本書は執筆されたと言っても過言でなく、豊富な事例と8つの具体的な処方箋が示されています。

 今日のネットワーク時代に即した企業組織といえば、グーグルやアップルと言った会社の名前が出ます。このような会社の組織がいかに優れていようと、既存の大企業が真似をするのは容易でもなく、超えるべき壁も大きいです。それよりもいまある仕組みから、俊敏な組織に移行する方法を模索するのが現実的です。その意味で、本書は既存の企業が変革組織に変わる、現実的な方法論を示した点で大きな価値があります(編集長・岩佐文夫)。