東京の課題を「資源」に

藤井 2020年の東京の計画については、どのように捉えていらっしゃいますか。

白井 東京オリンピックは、直径16kmで「コンパクト」を特徴として発信していますが、実態は少し異なります。
 歴史上、本当に「コンパクト」で「集中型」といえるのは直径5.5kmのアトランタでした。しかしアトランタは、オリンピック大会としては、実際には大失敗でした。小さなエリアにたくさんの人が集中したために交通機関がパンクしてしまったのです。
そもそも招致時に東京が前面に押し出していた「コンパクト」という概念は、その後の施設再検討によって、大きく崩れています。
 ですので、東京大会の施設配置は「分散型」であると認識して、その課題と利点を考察することが大事です。これまでのオリンピック都市の歴史を振り返ったとき、レガシーの観点から見れば、「分散型」は決して悪くないと思っています。

藤井 そのほかに、東京オリンピック計画においては、どのような課題が指摘できますか。

白井 大きなパブリックスペースがない、という点が挙げられています。ただ本当にこれがマイナスかというと必ずしもそうとはいえません。
 というのも、2020年に向けて、ビッグデータの活用やIoT(Internet of Things)、ウェアラブル端末、ドローンなど、様々なテクノロジーの大幅な進化が期待されています。これにより、従来のオリンピックとは全く異なる楽しみ方を実現し、世界に発信できる可能性があります。
 例えばパブリックビューイングにおいて新しいテクノロジーを活用することで、今後の新しいエンターテインメントのあり方を示すことが可能です。パブリックスペースの活用においてイノベーションを仕掛け、新たなモデルを世界に発信することは、東京あるいは日本企業にとって、かなりインパクトのあるレガシーとなるでしょう。

藤井 まさに、「課題を資源に置き換える」という発想ですね。

白井 そうですね。初めてお会いしたフォーラムでも藤井さんがお話されていて、強く共感しました。

藤井 ありがとうございます。昨今、東京や地方都市において、都市開発・産業開発のコンサルティング支援をする機会が増えています。その際大事にしているコンセプトは、「社会課題を資源に転換する」というものです。
 地域資源を発掘しようとしても、特に地方ではなかなか競争力ある資源が見当たらない。しかし社会課題は山積みです。であれば、それらの社会課題、特に日本中あるいは世界中が抱える社会課題を資源と捉え、地域をイノベーティブな課題解決のための実証実験場と見なすことによって、意欲ある新たなプレイヤーをトライセクターで呼び込むことができるのではないか、という考え方です。
 こういった発想で解決すべき東京の社会課題としては、どのようなものに注目されていますでしょうか。

白井 ご存じのとおり東京においては、空き家問題などのストックの活用が、深刻な社会課題になっています。
 ヨーロッパでは石造りの建物が多いため、外見は変えずに中身を変えてうまく活用することが一般的であり、長い時間をかけて都市を更新していくノウハウが成熟しています。
 一方、日本は元来木造建築が主流だったことも起因しているかもしれませんが、スクラップアンドビルドが原則となっており、都市に流れている“時間”をどうデザインするか、という視点が弱いと感じています。

藤井 そうですね。これからは、物を壊すことが前提であるスクラップアンドビルドの原則から、大きく視点を変えないといけないですね。どのような視点が今後重要になっていくのでしょうか。

白井 “想像だにしなかった建物の使い方”を考える、まさに建築の世界でもイノベーション発想が必要になりますね。その点、フランスなどはとても柔軟に建物を活用しています。例えばパリにあるオルセー美術館はもともと駅でしたし、教会を文化施設にしたりもしています。建物を見てなんとなく想像できる使われ方をいかに「壊して」いけるかがポイントでしょう。