たとえば、あなたの会社は、真面目で、細かな業務の精度が高い社員が多いことが強みだったとしよう。向いているのは、眼に見えにくいサービスの質が大事なインフラ系とか設備の安定的な管理が決め手の素材系事業だと考えてよさそうだ。そうした事業は計算上の収益率は低くとも、少なくとも反対の企業文化の会社、たとえば何よりもアイディアが勝負という社員が多数を占める会社よりも有利な条件で運営することができそうだからだ。そうした事業は一般には収益性は低いだろう。ガス事業や鉄鋼産業でグーグルやアップル並の収益率は望めない。だが、全部の会社がグーグルやアップルになることはできないし、また合理的でもないのである。

 ROEを高めるということが日本の企業社会での共通目標であるかのような雰囲気が広がるにつれ、企業自身がROEの数値目標を設定し公表するという動きが広がりつつある。ただ、それが数字上の投下資本利益率(ROIC)のようなものの高い事業に集中し、そうでない事業を捨てるというような意味で行われているのだとすれば、それは危ういというほかはない。利益率は重要な指標ではあるが、それはあくまでも「相対的な優位性」があるかどうかを検証して用いられたときの話なのである。

 決算数字から組み立てられるROEに数値目標を設定することで、競争上の優位を得られるとは思えない。競争上の優位を得ることができなければ、ROEをいくら高めても、誰のためにもならないのである。

 ROEにおける「分子対策」の話はこのくらいにしておこう。単なる数字合わせのようなROE目標設定が無意味であり、もしかすると有害かもしれないということが分かったところで、次回は、分子対策ではなく分母対策として、あるいは分子分母共通対策として、何ができるかを考えることにしたい。

 

(注1)ROAは個別企業間のパフォーマンス比較の指標としてはROEより一般的だろう。この指標を使った企業パフォーマンスの内外比較については、この連載の最終回で取り上げることにしたい。

(注2)ちなみに、これは次回に説明するモジリアーニ=ミラーの無関連性命題と言われる理論とも同根の話である。