さて、このように整理すると、単に数字を追うだけの事業機会の入れ替えは、企業価値を上げも下げもしないということに気が付くだろう。CAPMが想定するように十分に「裁定」の機能が働いているような市場では、あらゆる投資機会はリスクに応じた「一物一価」としての値段が付いているので、そうした事業をいくら入れ替えても、それだけでは損も得もないはずなのだ。損も得もない入れ替え売買をいくら行っても、それが企業価値に無関係なことは直感的にも明らかだろう。みかけの収益率のみに注目して、ロー・リターンの事業を売却してハイ・リターンの事業に集中するというような単純な対策では、結果としてROEは嵩上げになっても企業価値は改善しないのである(注2)。

大事なのは相対的な優位性の発見

 では、分子対策は、何の意味もないのだろうか。そんなことはない。それは、現実の事業機会は、ファイナンスの理論が想定するほどには十分に裁定され価格付けされているわけではないからだ。

 大事なことは、市場が気付いていない事業機会の価値に気付いて、そこに経営資源を集中することである。発見した事業機会が本来的にロー・リスク=ロー・リターンの事業であればROEは下がるかもしれない。しかし、そうであっても、発見が有意義なものであれば、言い換えれば、手に入れた事業機会がロー・リターン性を補って余りあるほどにロー・リスクであれば、ROEは下がっても企業価値は上がる、そういうこともあり得るというわけなのだ。

 当たり前の話だが、企業経営において、どの事業に経営資源を集中するかを考えることは無意味ではない。ただ、その基準は競争相手の他社との対比で相対的に優位性のある事業か否かであって、数字上の収益率予想が高い事業か否かではないはずである。このことを誤解してはならない。

 儲かっている会社の真似をして、見かけ上の収益率が高い事業を探し求めるような経営というのは、いつもボールを追いかけながら永遠にボールに追いつけない下手なサッカー選手のようなもので、株価あるいは企業価値としての「結果」を出すことにはつながらないのである。大事なことは、フィールド全体つまり産業経済の全体を見渡し、自分たちなら結果を出すことができるような状況に、自分の会社を持っていくことなのだ。

 もしあなたが企業経営者で、そのあなたが同業他社比で相対的に優位性のある事業を発見することができ、そこに経営資源を集中することをすれば、それは割安な事業機会を選択して集中することなのだから、企業価値を高めるだろう。そして、この場合の「相対的な優位性」とは、あくまでもリスク込みで評価した優位性であって、収益率そのものの「絶対的な高さ」ではないのである。

 だが、これは簡単にできることではない。重要なのは割安な事業機会なのか割高な事業機会なのかを判断することなのだから、表面的な数字を追うだけでは目論見は裏目に出かねないからである。繰り返しになるが、他社比で相対的に劣位にある事業を選択しては、それが数字としての収益率つまりROEを高めるものであったとしても、企業価値にはマイナスでしかない。反対に、見かけ上の収益率が低くても、自社の経営資源が有効に生かせる事業を選択すれば、ROEは低下しても企業価値は高まるかもしれない。あくまでも重要なのは、競争相手と比較しての、そしてリスク込みで評価した「相対的な優位性」でなければならない。