もう一度、世界が日本に学ぶ

 どうすれば儲ける力がつくのか。正解があるわけではなく、それぞれが考え抜いて、試しては修正するというサイクルを繰り返し、答えを探し続けるしかありません。ただ、日本企業の強みが生かしやすい方法とそうでない方法があるのは確かです。前者の1つが、「インテル入ってる」でおなじみのインサイド・モデルです。

前回、自転車部品のシマノの例を紹介しましたが、ファスナー界の巨人YKKも代表的な成功例の1つです。世界シェア約5割を誇るYKKのファスナーは、自動車、建材、工業機器、洋服、バッグなど、さまざまな製品に使われています。顧客の顔ぶれも、一流自動車メーカーからルイ・ヴィトンなどのトップブランド、新興国のアパレルメーカーまで実に多様です。

 当然ながら求められる機能や品質、価格もまちまちです。YKKはこれらの多様なニーズに応えるために、世界71カ国に拠点を置いています。ワン・トゥ・ワンで顧客の声を聞き、顧客のそばでつくって売るためです。その一方で、コア技術の開発や品質改善は富山県黒部市にある拠点が一手に引き受けていて、ブラックボックス化することで技術流出を防いでいます。

 黒部で磨いた最先端の技術を、各地域や各顧客にぴたりと落とし込むのは、世界各地に送り込んだ社員たちです。「土地っ子になる」というミッションを与えられた彼ら彼女らは、長い人では20年も行ったまま帰ってきません。時には自動車業界におけるゲストエンジニアのように顧客企業に入り込み、最適なファスナーを提供するために、黒部と顧客をつなぎます。

 技術者や海外赴任者を支えているのは、「善の循環」の一端を担っているという自負です。他者の利益を図らずして自らの繁栄はないというこの経営哲学が、頭ではなく心と体に落とし込まれているからこそ、黒部でわき目もふらずに開発に取り組んだり、20年も海外に行きっぱなしになったりしても耐えられるのでしょう。この一枚岩の強さは、欧米企業が望んでも簡単に手に入るものではありません。

 エンドユーザーはYKKのファスナーが使われているかどうかで自動車や洋服を選ぶわけではありませんが、結果として耐久性やスムーズな開閉といった品質を享受できます。自分たちが前面に出るわけではないけれど、いろいろなものに使われてその価値の一翼を担う。いわば黒子に徹しているところが、きわめて日本的です。

 マイクロソフトのように標準の座を奪取して、競合を蹴散らして一人勝ちする。こうしたプラットフォーム・ビジネスに見られるやり方は、日本企業が不得手とするところです。加えて言えば、一人勝ちしたプラットフォーマーは確かに一時は隆盛を極めることができますが、必ず反対勢力が生まれていつか倒されます。その点、黒子に徹していれば憎まれることもありません。

 さまざまな相手に寄り添い、取り込んでもらうインサイド・モデルは、プラットフォーム戦略に比べれば華々しさには欠けるものの、日本企業らしいビジネスモデルといえます。そしてその結果、利便性や快適性を引き上げるのに貢献し、世界を少しでも豊かにすることができれば、社会的価値と経済価値が真に両立する日本発CSVが実現します。

 このような課題認識のもと、「日本発CSV2.0」を研究するCSVフォーラムを、私が主催者となって昨年から立ち上げました。CSVに高い関心を持つ約30社の日本企業の次世代リーダーが毎月集まり、CSVを基軸とした経営モデルや事業モデルを検討しています。これらの研究の成果は、この夏に上梓予定の私の新著(東洋経済新報社)でご紹介させていただこうと思います。

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 トーマス・フリードマンがThe World is Flat(邦訳『フラット化する世界』日本経済新聞出版社)を書いてから、約10年が過ぎました。その間には、リーマンショックや欧州債務危機があり、中国をはじめとする新興国は着実に世界におけるプレゼンスを高めてきました。

 いまやイノベーションは先進国の特権ではありません。最初に新興国で生まれ、先進国に上陸する「リバース・イノベーション」が注目されています。また、伝統的な国際化の過程を経ずに、いきなり世界を目指す「ボーングローバル企業」も出現しています。フリードマンが想定したグローバリゼーション3.0のフラットな世界を超える、新たなグローバル化が進行していると見るべきでしょう。

 そうしたなかで日本は、何で稼いで、世界規模の成長を目指していくかを問われています。欧米流の華麗なビジネスモデルを実行しようとしても、トップの経営変革力に期待をしても、ほとんどのケースで失敗に終わることを、私たちは長い時間をかけて学習してきました。グローバル勝者への答えは、自分たちのなかにしかないのです。

 CSVは日本企業のなかに確実に存在しています。アメリカで生まれてエドワード・デミング博士によって日本にもたらされたTQCが、日本で根づいて世界を席巻したように、CSVも日本で進化して世界に通用するモデルに育つ可能性を持っています。地球全体の持続可能性(サステイナビリティ)が深刻な課題として再浮上している21世紀において、もう一度、世界が尊敬し、学びたいと願う日本になるために、社会との調和を基軸に据えた日本らしいCSVを追い求めていく必要があります。