最良のテクノロジー企業の多くは、探索と深化のサイクルを長期スパンの中で繰り返していく。探索が発明の創出を意味する場合もあれば、小規模の独創的な企業の買収を意味することもある。どんな方法であれ、探索の後には深化が続くというのが優れたテクノロジー企業の通例だ。なかには両方を同時に行う企業も少数あるが、我々の調査結果によれば、順次的アプローチのほうがはるかに一般的である。同時並行が非常に困難だからだろう。

 深化型R&Dによって、企業はそれまでに抱えていた画期的な新規アイデアを収益化できるようになり、ひいては短期的な利益を求めるステークホルダーからのプレッシャーをいくぶん軽減できる。CEOは、次に先鋭的なアイデアを補充するための探索が必要になるまでの間、一息つけるというわけだ。

 我々の調査結果によれば、探索型と深化型のR&Dを交互に行う企業は、そうでない企業に比べ業績でも違いが見られる。つまり、R&D予算を売上高の一定比率に固定し、探索型と深化型のいずれにも専念していない企業に比べ、業績が概して優れているのだ。

 シスコは両利きの手を交互に繰り出すことに卓越しており、2つのアプローチを絶好のタイミングで切り替えている――これが我々の調査における発見だ(英語論文)。実際、シスコはこの能力にかけては史上最高の1社とさえ我々は考えている。

 探索の期間中、目前に新たなチャンスが開けている時、シスコは競争優位につながる斬新なイノベーションを求めて惜しみなく投資する。その発見が十分な数に至った時点で、深化へとシフトする。これにより、R&D予算を削減しながら数多くの特許を生み出せるようになる。ただし特許の技術的範囲は探索期間よりも狭まる。

 インターネットがまだ勃興期にあった2000年代初めに、シスコは徹底的な探索と発見に努めた。この時期を経てモードを変更し、主にインターネットのバックボーンに関連したイノベーションの深化に取り組んだ。自社製ルータのスピードとスループットを向上させたアップグレード版を次々にリリースし、それに付随するソフトウェア・プラットフォームを改良した。複数の新たな市場にも進出したが、いずれも同社の既存の知識に立脚していた。たとえばシスコのストレージ分野のネットワーク製品はルータの変更版であったし、消費者向けワイヤレス・インターネットへの進出も、同社が長年培ってきた技術を拠り所とした。

 近年、シスコは再び探索の段階に入り、マルチメディア・コンファレンス技術をリードしている。ここでは主に小規模企業の買収という方法を取っている。この発見の期間に同社はどこに向かうのだろうか。歴史は繰り返すのならば、間もなく同社はコンファレンス技術に関連した貴重なアイデアを数多く蓄積し、その後に最良のアイデアを深化させる実りの時期に入ると思われる。

 シスコの事例は、企業がさまざまな形でビジョンを追求できることを実証している。賢い人材を雇って次なるトレンドを自由に探索させる、というのが唯一の方法ではない。また肝心なのは、いつ別のモードに切り替えるかだ。一連の先鋭的なアイデアは、いつ収益化への期が熟すのか。漸進的R&Dからの利益の減少を受け、いつ探索モードに戻るべきなのか――これらの時期を把握しなければならない。先見の明があるリーダーは、組織が惰性に陥るのを防ぎ、適切なタイミングで思考を切り替えられるよう支援する。この転換をたやすくできる企業は稀だが、実現すれば、探索と深化それぞれの勢いに乗じて実りを得られるのだ。


HBR.ORG原文:Sometimes Cutting R&D Spending Can Yield More Innovation January 08, 2015

■こちらの記事もおすすめします
証券アナリストが群がると、企業のイノベーションは減る
研究開発費に500倍の差があるのはなぜか? 損益計算書からわかる似て非なる部分
イノベーションにどう「制約と自由」を設けるべきか

 

ラム・ムダンビ(Ram Mudambi)
テンプル大学フォックス・スクール・オブ・ビジネスのフランク・M・スピークマン記念講座教授。戦略論を担当。同校のペレルマン・シニア・リサーチ・フェローでもある。

ティム・スウィフト(Tim Swift)
セント・ジョセフ大学経営学部准教授。

 

T・J・ハニガン(T. J. Hannigan)
テンプル大学フォックス・スクール・オブ・ビジネスの博士号候補者。