Nordstrom.comとアプリは在庫管理システムと統合されているので、顧客はある場所で欲しい物を見つけたら、それを別の場所から、さらに別の場所へと配送を手配できる。また、同社はピンタレストをはじめ人気のソーシャルアプリとの積極的な連携によって、顧客の嗜好に関する従業員の知識を深めている。ピンタレストで人気の商品は、実店舗でもピンタレストのロゴ入りの赤いタグを付けて目立つように陳列し、オンラインとオフラインの世界を結び付けている。

 ノードストロームは卓越した接客で定評があるが、今や従業員が手にしている情報は顧客の購入履歴だけでなく、顧客の嗜好、さらには顧客が探したが見つけられなかった商品の情報さえも含まれる。モバイル精算(販売員が手元のモバイル機器を通して精算)すれば、顧客をただレジに行かせるかわりに、支払い処理中も顧客と接しながら感謝を伝えやすくなる。

 ノードストロームは単に新たな販売チャネルを導入したのではなく、従業員と顧客に力を与える形でマルチチャネルを統合した。同社がSMACIT技術を利用したのは、「デジタルのビジネスモデル」を開発するためではなかった。SMACITによってこれまでのモデルをデジタル化して、自社の目的(エンパワーメントと素晴らしい顧客体験)を追求したのである。絶えざるデジタル化によって、ノードストロームはこの5年間に50%を超える収益拡大を実現した。オンラインと既存のチャネルの両方で、定価販売・割引販売ともに売上高を伸ばしている。

 ノードストロームの有するデジタル能力は、同社にとって完璧に理にかなっている。最も重要なのは、顧客へのサービスという究極の目的に向けて、デジタル能力が事業の全領域と密に結び付いていることだ。

 重要なのは、最良のアプリやアナリティクスやソーシャルメディアのツールを持つことではない。統合的なデジタル能力を構築するために、細部に配慮しながら各機能に1つずつ取り組んでいくこと、適切なデータへのアクセスを可能にすること、プロセスを単純化すること――これらが問われるのだ。

 ほとんどの小売業者にとって、その実現は難しいと思われる。商品データや顧客データが、SMACITの機能を通じて容易にアクセスできる形で構築されていないからだ。そのままでは、新たなデジタル能力を築き互いに統合させることも、それを事業全般に結び付けることも実質的に不可能だ。

 多くの企業はこの統合に苦労すると思われる。イノベーションのエンジンを持ち顧客満足の基準を引き上げ続ける他社に対抗しようとして、よくできてはいるがバラバラのSMACITアプリケーションをいくつか持つだけに落ち着くだろう。

 デジタルにおいて自社が何を目指すのか、今こそ目的を明確にすべきである。ソーシャル、モバイル、クラウド、あるいは他のいかなる技術であれ、個別に対処しなくてはと気を揉む必要はない。デジタル経済という大局を見据えた戦略を立てるために、まずは自社固有の能力と市場機会をふまえた目標を考えよう。その後で、目標の実現に必要なあらゆる技術を導入していけばいい。


HBR.ORG原文:Why Nordstrom’s Digital Strategy Works (and Yours Probably Doesn’t) January 14, 2015

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ジャンヌ W. ロス(Jeanne W. Ross)
マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメント情報システム研究センター(CISR)のディレクター兼主任研究員。

シンシア M. ベアス(Cynthia M. Beath)
テキサス大学オースティン校の名誉教授。

 

アイナ・セバスチャン(Ina Sebastian)
マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメント情報システム研究センターの研究員。