篠田:どんな組織も人がやることだから似ているんでしょうけれど、当社には何か1つ2つ違う要素が入っていそうです。糸井事務所にはいわゆる上司という存在がないんです。そのことを大企業に勤めている方にお話したら、上司が見ていなくて社員がズルけないんですかと言われました。

 たしかに昼寝とかしている人はいますけど(笑)、それも含めてOKな職場です。でも皆がズルけている緩い職場かというと決してそんなことはなくて、実際よく働いています。日々これだけのコンテンツを送り出しているわけですから。大きな会社では上司の目や査定などが、ループを強化する要素ですが、その代わりに、ここでは“読者に受けたい”という内発的な動機と、お客さんの反応が直に見えるという要素がより強くあって、それで回っているのかなと、いまのお話で思いました。そのあたりが他社とは違う要素なのかもしれませんね。

メンタルモデルを変えるだけで、組織の構造は変わります

枝廣:要素の違いやその要素がつくり出す構造の違いの根源にあるのがいわゆるメンタルモデルの違いです。メンタルモデルは世界観というか、いまの例で言うと大きな会社は、人間は監視していないとサボるものだっていうメンタルモデルです。だから、構造の中に上司の監視や厳しい規則という要素を入れていくけど、糸井事務所は人の成長欲求をメンタルモデルとしているのでしょう。

篠田:たしかに面白くなければサボるし、面白ければどんどんやる。人ってそういうものでしょう、と肯定している感じがあります。

枝廣:人は面白ければどんどんやるはずだっていうメンタルモデルをもっているから監視する必要はないし、上司もいらない。面白いかどうかが大事だよっていう構造ができているのです。根源となるメンタルモデルが違うと、たとえ同じ要素がその上に乗っていても全然違う構造になるんです。

篠田:なるほど、そうか! そうですね。当社は上場を目指していて、いまその準備をやれる範囲で進めているんですが、そのときメンタルモデルの差とも言うべきものがすごく顕わになります。というのも、上場のための様々な基準は性悪説によっていることが多いんです。悪い事件があって、今後再発しないようにって発想でルールができているんですね。

 でも当社は、人に見られていることが規律の源になるという点をとても大事にしています。コソコソするだろうから監視するのとは全く違って、私たちはもっと見てほしいと思っているわけです。見られているがゆえのコストもたくさんあるんだけど、それを超える面白さがあると信じている。その差は結構感じます。

 だから表面的に上場基準というルールに合わせるよりも、どこまでできるかはわからないですが、当社のメンタルモデルでも上場会社として立派にやっていけるということを糸井は世に問いたいのかもしれません。

枝廣:きっと、そうなのでしょう。悪い事例ももちろんあるので、性悪説に基づいた規則も大事でしょうけど、だからと言ってメンタルモデルを変える必要はありませんからね。

篠田:メンタルモデルが異なれば、乗っている要素が同じでも全く違うモデルになるというお話には勇気が湧きました。私たちのメンタルモデルを変えずに保てば、上場基準をチェックリスト的に取り入れたとしても、糸井事務所は独自のものを作り上げる可能性があるということですね。
(後編につづく)

※次回は5月27日(水)公開予定。

 

【連載バックナンバー】
第1回:行列のできるドーナツ屋さんが成長の限界を迎える理由