お客さんを増やしたいなら、
お客さんでなくなった人を大事にする

枝廣:ゴールに向かって一所懸命であればあるほど、そう思いがちですよね。システム思考で大事なことは希望的観測ではなく現実を見ることです。希望的観測で押し通せる間はいいけど、行列が長すぎてイヤになった人がマイナスの口コミを流し始めたりすると、あっという間にお客さんは減ってしまいます。

篠田:既存顧客から退出した人がまた潜在顧客になる。そのようにつながっていくわけですね。

枝廣:その人たちが恨みなくやめたとしたら潜在顧客に戻ります。でも損したと思っていたら悪い口コミを流す人になるかもしれません。だから退出する人に施すケアは大事です。

篠田:ほぼ日のウェブサイトはすべて無料で、読むための会員登録のような仕組みもありません。それは、退出者がよい潜在顧客になることを願っているからです。登録するという手間をかけてもらったり、毎日メルマガが送られて来るようなことがあると、興味が離れたお客さまはフラストレーションを感じて、また戻ってこようというときの障害になる可能性があるからです。

枝廣:それはいいやり方ですね。成長の限界で言うと、私が会員になっていた近所のスポーツジムは、一所懸命チラシを配って既存顧客を増やして利益を上げ、その利益をまた販促に使って新規顧客を増やしていました。

 でも、そのうち一杯になると思って様子を見ていたんですが、やはり成長の限界がきて会員数が横這いになってしまった。やはり待ち時間です。ランニングマシンが30分待ちみたいになって、文句が出てやめる人が増えて悪い口コミが回るようになり新規が増えなくなった。

 そのとき、このジムが何をやったかというと、大きな檜のお風呂に改修して、温泉からお湯を運び、スポーツのあとに温泉に入れますと打ち出したんです。すると温泉だけ入りにくる人が増えてまた会員数が伸びました。

篠田:素晴らしいですね。

枝廣:いまは温泉が一杯になったら、次どうするのかなと見ているんですけど(笑)、このように先に手を打つということが大事なのです。さっきのドーナツ店にしても、列が短くなり始めてから対策を練ってもあまり効果がなくて、列がまだ伸びているときに手を打っておく必要があります。構造を知るということはこのままいくとどうなるかを希望的観測ではなく考えて、手を打っていくということなんです。

篠田:私の場合、手を打つときもさっきの潜在顧客のように心理的に考えたくない気持ちが働いて、直線的なやり方を取ってしまいそうです。

枝廣:そのときにループ図で分析すると、どんな要素が限界になるかがわかります。特に頭打ちになったというのは成長の限界の原型というんですけど、それに陥っている可能性が強いんです。でも多くの人は、これまでの好循環にとらわれて間違った対応をしてしまう。頭打ちになったときにも成長のループをもっと回そうとするのですね。 

 成長の限界の原型に陥っているとしたら、インフローのアクセルを踏むのではなくブレーキになっている要因を弱めるか、あるいはアウトフローを抑えるほうがいいんです。でも事業がうまくいかなかったときに、こうした考察をしているところはほとんどありません。時代や社会のニーズが変わったから、ですませてしまうんです。

篠田:「ダメになったら何か新しいことを考えればいいんだよ、さっ、次いこう!」って(笑)。でも今後出す商品も必ず成長の限界に陥るロジックがあるわけですから、そこを理解するためにも頭打ちになった理由をちゃんとレビューしておく必要がありますね。
(中編につづく)

※次回は5月20日(水)公開予定。