3.ブランドの重要性の高まり
 第三の変化は、ブランドの重要性が高まってきたことである。私が企業のマーケティングに携わり始めた90年代は、デービッド・アーカー教授が『ブランド・エクイティ戦略』(陶山計介ほか訳、ダイヤモンド社)を発表し、ようやくブランドに注目が集まり始めた頃である。ただし、実務者の間ではロゴやシンボルといった表象的な議論が多く、ビジネスの本質面から捉えられていなかったように思う。それがこの間に大きくかわり、顧客との長期的な絆を構築するブランドはまさに企業の資産であり、企業の方向性を定めるファンダメンタルなファクターとしてその重要性が多くの企業のリーダーたちに浸透するようになったと感じている。インターネットの登場はこの流れを加速している。今や企業のあらゆる活動の情報にユーザーがアクセス可能な時代となったと言っても良いだろう。透明性と迅速な顧客との対話が求められる時代に企業のブランドが社内外で確立していることはビジネスの基盤として必須となった。

 これらの変化を俯瞰してみると、「オーセンティシティ」(本物、本質)というキーワードが浮かび上がってくるのではないか。デジタルによって、マーケティングが本来目指していた、ビジネス上の本質的価値を生み出すことが可能となった。同時に、マーケティングのあり方も「ハイプ」(一過性の刺激的なメッセージ)でユーザーを惹き付けるのではなく、本質的価値の提供によりユーザーとより深い絆を構築する時代になったのだと言えよう。

乗り越えるべき課題はなにか

 2014年、我々はアジア太平洋地域の4カ国で主な企業のCMOを対象に、企業がマーケティング領域のデジタル化を推進するにあたりどのような課題に直面しているのかを調査、「CMOホワイトペーパー」という形でまとめた(注1)。また、その後の定量調査を通じ、デジタルの活用を積極的に進めている企業の秘訣について洞察を得た。

 デジタル広告の技術やそれを取り入れたマーケティング手法は日々進化しており、マーケティングは既存の手法にデジタルを融合し進化させた「新たなマーケティング」として、継続的な革新が求められている。一方で、技術進化のスピードや端末・プラットフォームの多様化、多様なプレーヤー(メディア、サービス・プロバイダー)の登場に、多くのCMOがどこから始めていいのかわからないと感じている。

 また、デジタル時代に求められる柔軟性やスピードを実現するには、部門間連携の欠如組織間の壁、オペレーションの制約、人材ギャップ、インセンティブの欠如など、様々な課題に直面していることがわかった(詳しくは連載後半で紹介する)。

 かように課題が山積するデジタル時代に、企業は、CMOは、マーケティングをいかに進化させて行くべきか。本連載では、その必要性(Why)や新たなアプローチ(What)と共に、どのように実現するか、つまり組織・オペレーション場の課題に対する解決策(How)について、グーグルが考え、実践していることを多面的にお伝えし、日本企業の新たなマーケティングへの移行の示唆とできれば幸いである。

(つづく)

*次回は5月15日(金)公開予定。

 

【注】
(1)調査期間:2014年3月~6月(定性・定量調査)、2014年8~9月(追加インタビュー)。対象国:日本、中国、シンガポール、オーストラリア、インド。サンプル数:348名。