グーグルの広告イノベーションは、何を目指してきたか

 Google のミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」。この使命のもと検索エンジンを開発した。と同時に、検索連動型広告アドワーズを生み出すことで検索エンジンの収益化を実現した。実はこの検索連動型広告もまた、グーグルの使命に基づいたものである。

 それまでのウェブサイト広告は、ポータルサイトなど視聴者(トラフィック)が集まるページの広告媒体価値を高く設定するという、従来のマスメディア広告の延長線上にあるものだった。対して検索連動型広告は、ユーザーの興味関心と広告内容の関連性が高いことが「よりユーザーにとって価値を持つ広告」になるとし、ユーザーの検索キーワードに連動した広告を、関連性の高い順に検索結果ページに表示した。

 ユーザーの関心に沿っているからこそ、広告はユーザーにとって「有益な情報のひとつ」となり、「情報として価値が高いものとなる」となる。つまり、グーグルのアドワーズは広告という情報を整理し、人々が必要とする広告に自然にアクセスできるようにすることで、その情報価値を高めるという価値の転換をもたらした。

 アドワーズはこれ以外にも、豊富なデータを提供することで、広告に「精緻な効果測定」という考え方を持ち込んだ。さらには、極論を言えば1円からでも広告を出稿できるシステムをつくり、マスメディアでは広告のできなかった小規模組織にもスケール感のある広告キャンペーンを可能とし、「広告を民主化する」に寄与した。

 いずれにせよ、すべての出発点は、「広告をユーザーにとって有意義な情報とする」ことにある。そしてこれが、以降のデジタルによる広告イノベーションに大きな影響を与えた。

デジタルテクノロジーはマーケティングを変えるのか

 はたして、デジタルテクノロジーの登場によって、マーケティングは変わったのか。この答えはYesであり、Noである。グーグルのアドワーズを始めとする新たな広告手法の登場や、デジタルによって可能となった膨大なデータの集積は、生活者のニーズの把握、コミュニケーションや製品の流通を始めとするマーケティングのあらゆる側面を大きく変えているのは事実である。

 その一方で、マーケティングの目指すところは変わっていない。売れる仕組みづくり、販売をなくすこと、価値の交換など表現はいろいろあれど、いずれもユーザーと企業との関係を構築し、ビジネスを維持・成長させるための仕組みづくりを指し示す。グーグルではこれを “ Know the User, Know the Magic, Connect the two ”、「ユーザーのインサイトを深く把握し、マジック(この場合グーグル製品)の目指すビジョンを理解し、ユーザーにとって価値ある形で製品を提示し、ユーザーと結びつける」と表現している。私は広告代理店を皮切りに現在に至るまでマーケティングに携わってきたが、この点は時代や立場を問わずまったく変わらないと考えている。

 では、デジタルテクノロジーがマーケティングに及ぼした変化とは何か。特筆すべきは、以下の3点である。

1.ユーザーを中心としたマーケティングへ
 デジタルテクノロジーの浸透、特にインターネットという新たなコミュニケーションインフラの登場は、企業とユーザーの関わり方を根本的に変え、広告のありかたも大きく変えた。私は1990年代半ばにスタンフォード大学で過ごした際に、インターネットが広告にもたらすインパクトを目の当たりにし、衝撃を受けたのを覚えている。そこで、『ブランド構築と広告戦略』(青木幸弘ほか編著、日本経済新聞社)への寄稿で、「広告が真にユーザーにとっての情報価値を持ち始めたと同時に、今後は情報価値に加え、情緒価値を持つ時代になろう」と指摘した。

 この間、YouTubeを始めとする動画プラットフォーム、ソーシャルの発展によって、デジタル広告は単なる情報にとどまらない、ユーザーとの強い感情的な絆を結ぶメディアとして成長してきた。またメディアが細分化し、モバイルがユーザーの生活に浸透したことで、「適切な対象に・適切なメッセージを・適切なタイミングで」提供することが可能となった。これが大きな第一の変化である。

2.データ重視のアプローチの浸透
 第二の変化として、より精緻なデータに基づくマーケティングが実践されるようになってきた点を指摘したい。インターネットはユーザーの情報収集、発信活動の基盤となっており、企業は自社の顧客のみならず、生活者のインサイトをデータによって把握できるようになっている。またデジタルテクノロジーによって、マーケティング活動の投資対効果(マーケティングROI)についても、その多くが測定可能となった。

「広告費の半分がカネの無駄使いであることは分かっている。分からないのは、どっちの半分が無駄なのか、だ」という時代は終わった。リアルタイムで投資のROIを測り、その結果を迅速にマーケティング施策に反映させ、ROI を向上させることが可能な時代となりつつある。