――でも、それはグーグルがグーグルグラスについて語っていたことと同じではないでしょうか。私にはまだ信じられないのですが。

 グーグルグラスには矛盾がありました。外出中でもユビキタス・コンピューティングが可能な未来を提案した、未来の道具であったことは間違いありません。しかし一方で、グーグルグラスはスマートフォンで簡単にできる機能のほんの一部を、眼鏡を通して目の前で体験できただけでした。アプリや機能は限定的で、スマートフォンの魅力や利便性にはとうてい及びません。だからグーグルグラスは冷笑の的となったのです。ごく限られたタスクを達成するためにお金を使い、その姿が滑稽に見えるかもしれないなんて、未来を体現しているとはいえず、現代にすら適していません。2005年のフィーチャーフォンを使っているのと同じです。

 新たな技術を世に送り出すには、まずは消費者がすでに抱えているタスクの達成を助けることから始める必要があります。グーグルも試みましたが、以前よりも圧倒的に簡単で、楽しく、便利に行えなければならないのです。残念ながら、グーグルグラスはそうではありませんでした。

 この点をクリアした後は、「人々が潜在的に望んでいたが自覚していなかった行動」を明らかにして、その達成を速やかに導くことで未来につながります。ホログラフィック・コンピューティングは、まさにこのようにして急速に広まり、そのうちコンピュータ環境を席巻するでしょう。iPhoneの登場を機に広まったタッチ式インターフェースと同じように。

――ホロレンズはグーグルグラスと同様に、倫理・対人関係面の課題に直面するのではないでしょうか。グーグルグラスの時には、「グラスホール」(Asshole〈ろくでなし〉とGlassを合わせた造語。マナーに反する使い方で他者に迷惑をかける人)という言葉もつくられましたが。

 グーグルグラスとホロレンズの違いを理解する必要があります。グーグルグラスは、外出先で使われることのみを想定してつくられていました。グーグルグラスはユーザーの行動を実際に「見る」ことができなかったので、出歩いている時に情報を把握する道具として以外にはさほど役に立ちませんでした。公共の場での使用を前提としているからこそ、倫理や対人面での批判に悩まされたのです。

 これに対し、ホロレンズはいまのところ、屋外での使用を想定して設計されていません。自宅と職場でのタスクをもっと効果的に実行するための道具です。ホロレンズはユーザーが目にするものを見れる、つまり3次元の物体とその表面を認識できるため、ユーザーが最も多く時間を過ごしている場所で、エンターテイメントと生産性向上を目的としたバーチャル体験を提供できます。これは企業にとって、自宅や職場にいる顧客にサービスを提供できる時間が増えるチャンスを意味します。そこではユーザーは他者の目を気にする必要はありません。

――では、ホログラフィック・インターフェースのキラーアプリとは、どのようなものになるのでしょうか。

 小売り、旅行、自動車、金融サービスといった業界にうってつけでしょう。たとえば、イケアがホログラフィーのカタログをつくるとします。顧客は購入を検討中の家具を自分の寝室に置いて、どう見えるか確認でき、周囲を歩き回れる。これが一大革命となることはおわかりでしょう。レシピ共有の世界的コミュニティサイト「オールレシピ」が、ユーザーに対し、キッチンの具体的な戸棚からココアを取り出すよう指示し、ココアパウダーを計量スプーンで測る時に何杯目かを数えてくれるようなら、これも革新的です。企業ユースでホロレンズが役立ちすぐに広がりそうなものとしては、滑走路でジェット機の整備をする技術者に向けたホログラフィック・アプリ、建築士のためのコラボレーション可能な3Dの設計環境、難しい抜歯の際に歯科医をガイドしてくれる特別なヘッドセット、などが考えられます。

 でも根本的に、私の考えはご質問の前提とは違います。黎明期のインターネットと同様に、この技術はキラーアプリを生み出すことはないと思うのです。既存のアプリケーションを通じて、より幅広い業界・企業で小さな前進がいくつも積み重なっていくのではないでしょうか。黎明期のインターネットと違う点として、広まるまでに10年はかからないと思います。