ブランドとは何か、については、色々な定義の仕方がありうるが、取りあえずここでは、「製品あるいは企業とステークホールダーとの無形の絆」と定義しておこう。ブランドは、企業の無形資産であり、それによって、ステークホールダーとの間に強い絆を築くことによって、他社との差別化を図りうる競争力の源泉でもある。

 またステークホールダーとは、単に企業の顧客のみならず、投資家、社員・学生、地域のコミュニティなど企業に利害関係を有する広範な存在である。強力な企業ブランドは、顧客のロイヤリティを確保するのみならず、投資を誘引し、社員に誇りを持たせ、優秀な学生を集め、そして操業地域の住民の支持をもたらしうる。ただそれだけのブランド力=無形の絆を築くためには、ステークホールダーが抱く製品や企業に対する期待価値に対して、常に同等かそれ以上の価値を不断に提供し続ける必要がある。

 こうしたブランド重要度の高まりから、自社の企業・製品ブランドの構築、維持、発展に、経営者自身が深く関与すべき状況になってきている。ブランドの選択と集中、ブランド・マネジメントへの資源投入、対象ステークホールダーの拡大、多地域・多部門での統一ブランド管理、そしてブランド価値の定期的評価などに、経営者自身が積極的に関与する必要があろう。

 例えば、CEMEXというセメント会社がある。セメントと言えば、日本では成熟した、いささか退屈な業界と認識されていると思うが、CEMEXのL・ロレンゾCEOは、「セメントほど高成長で高収益な事業はない」と常々主張している。同社は、30年程前までは世界で30位前後の、メキシコの小さなセメント会社に過ぎなかったが、1990年代以降中南米、欧州、北米、アジアの各国で果敢にM&Aを展開し、今や世界でトップ5に入るセメントメーカーに急成長してきた。この非有機的成長の過程で、トップ・ダウンによるブランド・マネジメントがグローバルの企業統合に極めて有効な役割を果たしてきたと言われる。「セメントは文化産業である。人々は、セメント袋のトレードマークでセメントを選ぶ。特に、新興国市場では。そして、CEMEXブランドは、強度、耐久性、そして伝統の象徴である。CEMEXブランドへのロイヤリティ醸成は、CEMEXの持続的な競合優位になる」との信念から、同社CEOは被買収企業にCEMEXのブランド力を注入することを自ら陣頭してきたと言われる。