リモートオフィスを機能させるもの

 2年間の物語ではチームの舞台裏についても述べられているが、何より興味を引かれるのは、リモートオフィスのマネジメントではないだろうか。リモートオフィスゆえ、採用は面接でも試験でもなく、単純な実際のプロジェクトを任されることで判断される。新人研修は顧客のサポートを体験することである。社内のコミュニケーションの主な手段は、P2と呼ばれる社内ブログ、そしてIRCというチャット、スカイプである(メールはほとんど用いられない)。

 さらに決められたスケジュールもなく(社員はそれぞれのペースで成果物を公開する)、ほとんどルールもないという仕事環境で、どのようにして社員のやる気と仕事の質を維持しているのかと思いきや、実は各人の仕事の成果は統計を取られて公開されており、それが一種の社員管理術となっている。

 しかし何よりも、オープンソースのワードプレス・ドットコムの設計思想に共鳴した、優秀で独立心旺盛、そして情熱ある社員が集まっていることこそ、リモートオフィスを機能させ、成果を生み出し続ける大きな要因であるように思われる。オープンソースの考え方は、創設者のマレンウェッグが大切にしてきた原理であり、それはオートマティックの企業文化に生きている。この企業文化あってこそのリモートオフィスとも言えるだろう。

 ただ、リモートオフィスには足りないものがある。当たり前のことだが、直接顔を突き合わせてのコミュニケーションができないことだ。年次総会などで社員が一同に会する機会は設けられているものの、社内の打ち合わせのほとんどはテキストによる。相手の口調やボディランゲージから読み取れるはずの情報はない。そこで重要となるのが相手との信頼関係だという。言うは易しという気もするが、相互の信頼関係を地道に積み上げていくことこそ、リモートオフィスの弱点を補う手段なのだ。

 現実問題として多くの企業ではリモートオフィスを導入することは難しい。また働く側も、自律的に働けるタイプでなければ厳しいだろう。仕事の未来を垣間見せてくれる本書だが、その厳しさを感じさせる一冊でもあるようだ。