日本のソーシャルセクターの
最前線で起こっているうねり

藤井 期待される役割が大きくなり、まさに転換点にいるソーシャルセクターのケイパビリティを高めるためには、リソースの集積、特にセクターを牽引するリーダー人材と、それを支える資金が重要になります。
 人材の面では、たとえば米国のMBA取得者の就職先の上位にはNPO/NGOが多く登場します。最近では経営コンサルタントの次のキャリアとして、かつて隆盛だったプライベートエクイティなどが影をひそめ、ソーシャルセクターを選択する事例も増え、ソーシャルセクターへのリーダー人材のシフトが顕著です。
 日本でも徐々にそのような動きがあるようですが、その最前線にいらっしゃって、どのような感覚をお持ちでしょうか。

小沼 確かに、NPOなどを軸とした社会課題解決活動への関心が急速に高まる中で、ソーシャルセクターに人材が集まる流れもできてきていると感じます。
 ビジネスセクターからのシフトでいえば、CSVという概念が広まったことで、経済性と社会性は両立しうることが認識され始めたことは大きいです。米国同様、経営コンサルティング会社などのプロフェッショナルファームにいた人材が、企業の課題解決を超え、より解決が困難な社会課題にチャレンジしようとNPOを設立するなどといったケースも増えています。また、特にここ2~3年で、自ら事業を立ち上げるだけでなく、非常に優秀なビジネスパーソンがソーシャルセクターの職員に転身するケースも急増しているように思います。

藤井 小沼さんをはじめとして、ソーシャルセクターで活躍する方が他セクターにいる人材を惹きつけ、集まってくることにより、日本のソーシャルセクターの潜在力が顕在化し始めているようにも見えます。

小沼 私もそう実感しています。加えて、パブリックセクターが主導してビジネスセクターの人材をソーシャルセクターとつなぐ動きもあります。
 たとえば現在、“地域おこし協力隊”という活動を政府が自治体に仕掛け始めており、この取り組みにはビジネスセクターの人材も集まってきています。地域おこし協力隊は、2009年に総務省で制度化されたもので、自治体が地域おこしに興味のある都市部の住民を受け入れて、地域協力活動に従事しながら定住・定着化を図る取り組みです。私はこれを、前回お話した米国の青年“国内”協力隊にあたるAmeriCorps(アメリコー)に類似する取り組みと捉えています。クロスフィールズ(以下CF)設立当初はこの青年“国内”協力隊というアイデアには誰も見向きもしませんでしたが、今では国レベルの取り組みになってきています。

藤井 まさにトライセクターの取り組みですね。そのように人材が集まる中、それを支える資金に関してはどのような動きがあるのでしょうか。

小沼 それについても、さまざまな変化があります。たとえば、残念ながら世間ではあまり認知されていませんが、NPO法人に関連する税制はこの2年くらいでドラスティックに変わりました。実は今の時点で、日本のNPO関連の税制は欧米諸国に比べても極めて先進的なものとなっているんです。税の優遇措置を受けられる「認定NPO」になる条件の緩和などが代表的な動きです。
 さらに、ソーシャルセクターに積極的に資金を集める制度や政策も整ってきています。認定NPO法人フローレンス代表の駒崎さんを筆頭としたソーシャルセクターの有志は、さまざまな提案を政府に働きかけ、さまざまな規制/ルール上の壁を壊そうと尽力しています。たとえば「休眠口座基金」創設を提言され、数百億円といわれる宙に浮いたお金の使い道を、公的な用途にまわせるよう提案し、実際に法案が動き始めています。

藤井 休眠口座基金は、「ソーシャルインパクト投資」への活用も検討されていますね。ソーシャルインパクト投資は、G8でのキャメロン英首相の声掛けで広がった、ビジネスセクターの社会課題解決への投資で、ファイナンシャルリターンとソーシャルリターンの両方を目指すものです。我々もこの市場創りに向けて活動を進めており、資金をビジネスの文脈でソーシャルセクターに還流させる新たな資本市場形成、資金の還流を生み出す仕組みといえます。

小沼 このような人材と資金をソーシャルセクターに集積する取り組みが、セクター全体を活気付けていることを実感しています。