中国が羨む日本の中間産業

 当事者であるほど、自分たちの価値がわからなくなってしまうものです。たとえば、商社の人に商社の強みを聞いても、的を射た答えはなかなか返ってきません。

 商社の本質的な強み、機能は何か。私は「神の手」をつくることにあると考えます。一方に何かが得意な人がいて、もう一方に何かを求めている人がいる。これを、「神の手」によってつなぐのが商社の役割です。

 そして、それを実現するための手段としてFILM(F:金融、I:情報、L:物流、M:マーケティング)がある。もちろん金融なら金融、ITならITを専門とする企業はほかにありますが、全部を統合して提供するという相当に高度なことを商社はやっている。だから、ひと頃の商社不要論を乗り越えて、世界に類を見ない現在のビジネスモデルを構築できたのです。

 同じく日本で発達した中間産業に卸売業があります。非効率の象徴として「中抜き」の必要性が盛んにいわれた時代もありましたが、しぶとく生き残り、流通業における存在感を現在も維持しています。

 面白いことに中国がいま日本の卸売業に興味を示しています。広い国土に散在する製造企業と小売業者を効率的につなぎ、必要とされるものを必要なタイミングで過不足なく供給するために、高度に発達した日本の卸売業のシステムを学びたいというのです。

 アマゾンが持つ豊富な品揃えや適切な在庫管理、リードタイムをぎりぎりまで短縮した納品、一人ひとりの顧客に最適な商品の提案といった機能は、規模やスピードの違いはあっても優れた日本の卸売業が備えていたものです。

 ITのない時代にフィジカルにそれをつくり上げることができたのは、日本人の器用さやきめ細やかさがあってのことです。中国の人はいまそれを学んで吸収したいと願っています。

 中国企業による買収や技術提携に対する抵抗は根強いものがありますが、日本の技術に敬意を払い、途絶えさせることなく受け継ぎたいという中国人も大勢います。民事再生中だった本間ゴルフを買収し、現在は会長職にある劉建国氏は本間のクラブが大好きです。中国が豊かになって、望めば誰もが買えるようになるまで本間の技を絶やしたくないと考えて、日本企業がどこも手を挙げなかった同社の支援に手を挙げたそうです。

 もちろんビジネスになるから買収したわけですが、技術を盗んで、あとはブランドだけを使って安価なものをつくろうといった考えはなかったはずです。事実、本間のクラブはいまも秋田県酒田市の工場で日本人の手によって生産されています。

 一見すると非効率で意味がないように思えるものでも、客観的に評価すると価値があることもあります。特に中小企業にとっては、自分たちではわからない価値や強みを外の目で見つけてもらう方法は非常に有効です。

 技術力が高く、事業を継続するなかで獲得したDNAもあるのに、居心地のよい系列関係にしがみついて先細りする道を選ぶのか。自社を正当に評価してくれるパートナーを探しに勇気ある一歩を踏み出すのか。日本の中小企業はいま岐路に立っています。

 日本の99%は中小企業で、その底力が日本の技術や製品に対する信頼を支えています。グローバリゼーションというと大企業に焦点が当てられがちですが、層の厚い中小企業のグローバル化が進まなければ、日本経済はグローバリゼーション3.0に追いつけません。あと20年もすれば、匠の技術も深く根をはったDNAも失われてしまうでしょう。残された時間は多くはないのです。