シマノはなぜ自転車界のインテルになれたのか

 日本にも少数ではありますが、3.0のアービトラージに挑戦し、成果を上げている企業があります。

 自転車部品のシマノは部品メーカーでありながら、世界中のユーザーに広く認知されています。今から40年ほど前に急速なモータリゼーションに危機感を募らせ、自転車が生き残る道はハイエンドの競技用とママチャリの2つしかないと予測したシマノは、現在その両方の市場で世界に君臨しています。

 2014年のツール・ド・フランスでは参加22チーム中14チームがシマノの部品を使い、年間の総合順位でも上位を独占しました。ロードレーサーやスポーツとして自転車を楽しむ人の間では「シマノ・インサイド」が、プレミアム・ブランドの証として認知されています。ただし、高級自転車の市場は世界的にもごく限られたもので、これだけではボリュームをとれません。

 そこでシマノは、世界最大の自転車メーカーである台湾のジャイアントと組んで、中国をはじめとする新興国市場にもしっかり食い込みました。廉価なママチャリにシマノの部品が必要なのかと疑問に感じるかもしれませんが、シマノの部品が1点使われているだけで、その他大勢の大衆自転車と一線を画すことができる。ヨーロッパで確立したブランドによって、レッドオーシャンから抜け出せるのです。

 大阪府堺市にあるシマノ本社には、『E.T.』の空飛ぶ自転車の写真が貼ってあります。技術者たちは「空気抵抗を極限まで減らせばいつか空を飛ぶんじゃないか」と冗談で、でもどこか本気で考えている節がある。日本が誇る匠たちです。

 とはいえ、そういう職人気質の人たちの意見に従えば、ママチャリにシマノの部品を1点といわず2点、3点と使おうという話になってしまいます。それでは新興国の人たちには手が出ません。

 それゆえシマノはシンガポールに華僑の人たちが中心となるプラットフォームセンターを設け、そこがマーケティングを一手に引き受けています。イタリアメーカーのデザインや性能に対する要求、台湾メーカーが求める価格、そうした世界各地の自転車メーカーの声を聞き、堺の匠が最新の技術でつくった部品の中から商品化するものを決めて、それを売り込むのが彼らの仕事です。

 日本の技術、シンガポールのマネタイズ、イタリアのデザイン、台湾のものづくり――単なる分業ではなく、それぞれの知恵を溶け合わせて一つのものにしているのが、シマノのアービトラージです。

あなたの会社の本質的な強みは何か?

 自前主義や純血主義から抜け出せずにいる日本企業は少なくありません。しかし成長の限界を突破するには、シマノがシンガポールの華僑の力を活用しているように、自社の得意領域にとことんこだわり磨きをかける一方で、苦手なことや弱い部分は他者の力を借りて補完するという大胆な戦略が必要です。

 ただし、中途半端な強みでは誰も寄って来てはくれません。余分なものを削ぎ落として純化して、それをわかりやすいかたちで提示しない限り、異質な力を持つプレーヤーを惹き付けることはできないのです。

 そこで、いま一度自社の事業を見つめ直し「真の強みは何か」と問うてみてください。

 実は、即座にこの問いに答えることのできる経営者はそれほど多くありません。特定の製品やサービス、あるいは生産技術や研究開発力といった漠然とした答えが返ってくることがありますが、それらは本質的な強みによってもたらされる「結果」にすぎないのです。

 ある会社でこの質問をした時のことです。「汗」という答えが出て、一同大爆笑になったことがあります。より本質に迫ろうと、表面的なものを取り除いた末に絞り出した答えでしたが、どうやら剥きすぎてしまったようです。

 確かに、労を惜しまず妥協のないものづくりをするその会社のことをよく表していますし、それを知っている人にとっては「なるほど」とうなずけるものでしょう。しかし、知らない人には何のことだかさっぱりわかりません。「うちの強みはここです」「これだけはどこにも負けません」と、外からもわかりやすいかたちで旗を立てることが必要なのです。