第1に考えられるのは、優秀で信頼のおける現CEOに対し、取締役会が予定より長くその任に居続けるよう説得する場合である。引き続き優れた統率力を発揮し、組織の発展を維持し、来たる嵐を切り抜けてほしいからだ。しかしそのCEOがついに職を退く頃、ビジネス環境はさらに複雑で不安定になっている。会社には路線の転換と、新しいタイプのリーダーが必要だと取締役会は考える。より現状に適した経験と未来志向の持ち主だ。したがって「苔が生えた」現在の上級幹部たちは対象外とされ、より経験の浅い者が抜擢される。

 第2のシナリオは、CEOの任期満了による退任が混乱期と重なる場合である。会社の前途には破壊的な変化や混乱を招く要因が待ち構えている。新たな規制圧力、業界再編、複雑な新興テクノロジー、あるいは消費者行動の変化などだ。取締役会は対応策として、こうした要因を理解できるリーダーを探す。だが、上級幹部たちは往々にして退任するCEOと同じ世界観を持ち、業界に広がる変化に疎いこともすでにわかっているため、取締役会はもっと低い階層のリーダーに目を向ける。

 要約すれば、1つ目の状況では現職のCEOの在任が長すぎるために、一階層下の幹部たちが、先を見越す視点を持ち合わせていない。2つ目の状況では、CEOの継承が会社の危機的な時期と重なり、業界や関連技術の激変を現場で直接経験したリーダーが必要とされている。

 CEOの抜擢人事が多く見られるのは、偶然の一致なのか、一時的なものか、それとも本格的なトレンドなのか――その判断を下すにはまだ時期尚早だ。しかしはっきりしていることもある。新任CEOの成功を助けるため、そして社内でCEO候補者の層を広げるために、取締役会と企業が講じられる策はたくさんあるということだ。

 取締役陣は、新たなリーダーの移行・育成期間を通じて、関与し続けることが求められる。比較的下位の幹部のCEO抜擢を検討しているのなら、その候補者をまずは社長やCFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)などに任命し、適性を試すとともに上級幹部としての経験を積ませるとよい。候補者を取締役会の一員とすることで、他のメンバーたちとの交流経験を積ませることができる。また、候補者に全社的な重要施策の推進を任せることで、さまざまな部門のリーダーたちを動かす機会を与えられる。

 飛び級リーダーがCEOに就任した後も、取締役陣には引き続きその成功を支えるためにできることがある。初年度は、CEOと取締役会議長の役割を分離し、別の人間に議長として投資家たちに対応してもらうとよい。そうすれば新任CEOは会社の牽引に専念できる。CEO就任に向けた明確な移行プロセスと、初年度の計画を設けておくことも、新CEOが好スタートを切る一助となるだろう。

 上級幹部のなかには、下の階層の候補者が自分を飛び越してトップとなったことに落胆する人もいるかもしれない。会社を去る人が出る可能性も想定に入れ、後任の指名や利害関係者への働きかけなどの緊急時対応策を用意しておくべきである。同時に、追い越された幹部陣に対しては、責任の範囲を拡大し、経験を広げる機会を提供することで、モチベーションを持続させるよう働きかけるとよい。

 社内におけるCEO候補者の層を広げるためには、取締役会は後継者選定プロセスを再検討すべきである。経営トップに(CEOのみならず上級幹部についても)求められる能力を改めて吟味し、有望な候補者をキャリアの早いうちに見出すのだ。数名の上級幹部を異動させて若い有望人材を後任に就かせ、必要な経験を積ませるのも賢明だろう。

 何より重要なこととして、抜擢によるCEO任命は必ず正当な理由の下で行われるべきだ。飛び級は消去法による「最悪よりはマシな」選択肢であってはならない。取締役会は、将来の自社の舵取りに関する多様なシナリオをふまえた経営者育成計画を練っておく必要がある。そうすれば候補者の幅が広がり、自社の戦略課題に最も見合った後継者を選べる。先見の明がある会社は、先頭に立てる人材を早い段階で見出し、トップとして成功できるよう育成している。飛び級CEOの任命は計画的な戦略の結果であるべきで、決死の策であってはならない。

原注:本記事の作成に貢献してくれたBCGの同僚、ゲリー・ハンセル、ケイ・フォスター、デイビッド・バロンに謝意を表したい。

HBR.ORG原文:The Rise of the Not-So-Experienced CEO December 26, 2014


■こちらの記事もおすすめします
経営人材は企業内で育てられるのか
GE流、中途採用者の育て方
プロ経営者の時代【連載全5回】

 

ロザリンデ・トーレス(Roselinde Torres)
ボストン コンサルティング グループ(BCG)ニューヨーク・オフィスのシニアパートナー。これまで200人以上のCEOに、経営トップになるための準備や必要な能力について助言を行っている。最近まで同社のリーダーシップ・プラクティスのグローバルリーダーを務めていた。