他社の望ましい事例に結びつける――
「課題」解決のイメージを示す

 次に小杉さんの発言内容を見ていて気がつくことは、ユニクロやKIRINなど玉寿司とは業種の異なる様々な会社のエピソードが出てくることです。これらはもちろん、雑談のネタとして持ち出されているわけではなく、それぞれが経営課題の明確化を図るために効果的に用いられていたと見て取ることができます。

 ユニクロの事例では、「全然業界は違うのですが、ユニクロは企業理念として『超合理的』という言葉がまずあって、すべてのお店の店員一人一人がそれをめざしてやっていると聞いた事があるのですが」と述べられています。小杉さんははっきりと明言はしていませんが、これはユニクロを望ましい成功事例の1つとして紹介していると言えるでしょう。つまり、ここでは、他企業における“企業理念の役割”に関する望ましい事例が紹介され、その観点から玉寿司の企業理念の振り返りが行われていたと言えます。

 またKIRINについては、同社にも「ロゴ」と「キャラクター」が存在することを確認した上で、「まさに同じような悩みを持っていた」と述べて、KIRINと玉寿司の経営上の「悩み」の共通性が指摘されています。ここでは、今度は“企業理念の伝達手段”に関する望ましい事例の紹介が行われ、そこから玉寿司の「ロゴ」と「キャラクター」の振り返りが行われていたと見て取れます。

経営における広告クリエイティブが果たす役割の解明へ向けて

 ここで小杉さんが対談の前半で行っていた活動をまとめると次のようになるでしょう。小杉さんはまず自らの専門性を指し示す「デザイナー」というカテゴリーを用いて、「ロゴ」と「キャラクター」に注目する立場を表明します。ここでそれらのデザインの話に留まり、中野里社長の意見を伺いながら、より良い「ロゴ」や「キャラクター」の制作を目指すこともできたはずです。しかし、小杉さんは「消費者」や「大学生のバイト」という異なるカテゴリーを用いることにより、企業理念の象徴としての「ロゴ」や「カテゴリー」の機能面に焦点を当てて、そこから「課題」の抽出を行おうとしていたのです。

「ロゴ」や「キャラクター」に企業理念の象徴という役割を担わせるのであれば、企業理念を適切なメッセージにして人々に伝える必要があります。そして、企業理念を伝えるべき人々とは他でもない、「消費者」と「従業員」です。小杉さんは「消費者」と「大学生のバイト」というカテゴリーを自らに適用して一見「挑発的な意見」を述べることにより、企業理念が「消費者」や「従業員」に適切に伝えられているかというトピックに、徐々にフォーカスを定めていったのです。

 また、この観点から見れば、他社事例の紹介で小杉さんは、いわば「経営者」カテゴリーを用いて「意見」を述べていたと捉えることもできるでしょう。小杉さんは経営の専門家ではないはずですが、このように複数の他社事例を紹介することにより、少なくとも企業理念とその伝達手段については、「経営者」の視点で「意見」を述べられるという専門性を、産出していたと見て取ることができます。