自分が「何の専門家であるか」を表明する
――「課題」のタイプを絞る

第1回の対談の冒頭で小杉さんは事前に玉寿司の晴見通り店を視察していたことを明かし、その際に、「私はデザイナーなので、ついついロゴやメニュー、店内のデザインなどがすごく気になってしまうんですね」と述べています。ここでは、第一に小杉さんがご自身を「デザイナー」とカテゴライズすることによって自身が「デザイン」を専門としているということ、第二に「デザイナー」カテゴリーと結びつく活動として「ロゴやメニュー」が「気になってしまう」ということが示されています。すなわち、小杉さんは対談を始めるにあたって、まずもって広告クリエイター(ここでは「デザイナー」)がどのような専門性を有しているのかを中野里社長に理解してもらえるように表明しているのです。

 広告クリエイターと呼ばれる人々は、世間的には、例えば「教師」や「医者」といった専門家ほど、提供してくれる価値が明確になっているとはいえません。そのため、彼らがいったいどのような専門性を有していて、どのような価値を提供できるのかを、クライアントに対してもはっきりと示すことが求められてきます。

 そして、専門家がどのような専門性を有しているのかが分かっていないとクライアントの方も何を相談していいのか分かりません。小杉さんによる「デザイナー」という立場の表明には、中野里社長にとって、小杉さんが企業内のどのような要素に着目する専門家なのかが分かるように示されています。ここではその後の相談の流れを企業理念の象徴としての「ロゴ」や「キャラクター」へと方向づける活動が行われていたと言えるでしょう。

「挑発的な意見」を述べて相手に見解を求める
――「課題」の在りかを探る

 しかし、この発言のすぐ後に小杉さんは「で、席についてメニューを見たり、注文したんですけど、メニューがなんだかチェーン店っぽいな…と、一人の消費者として感じてしまったんです」と述べています。「デザイナー」から一転して今度は自らに対して「消費者」というカテゴリーを用いています。また、後の箇所では「僕が大学生のバイトだったとしたら、先ほど見せて頂いた経営理念の心構えよりも、『お寿司屋さんのコンシェルジュになってください』と言われた方が目標が明確になって気持ちが変わるなぁーと思いました」とも述べており、今度は「大学生のバイト」というカテゴリーも用いています。

 一度「デザイナー」として自らの立場を表明した後に、ここでなぜ小杉さんはわざわざ「消費者」や「大学生のバイト」といったカテゴリーを持ち出してきたのでしょうか。「消費者」や「大学生のバイト」というカテゴリーは、「デザイナー」とは異なり、いわば「専門家ではない専門家」、言い換えれば「素人の専門家」とでも特徴づけられるカテゴリーです。これらのカテゴリーを用いると、思ったことや感じたことの表明が企業にとっては容易には反駁できない「意見」の様相を帯びるようになります。

 そして、このような「意見」は相手に対して何らかの見解を求めるような呼び水という意味でのある種の「挑発」的な機能をも果たします。小杉さんはこのような「素人の専門家」カテゴリーを用いて「挑発的な意見」を述べることにより、中野里社長から自身が対応可能な「課題」に結び付きそうな見解を引き出そうとしていたと見て取ることができます。