私は、論理的にニッチな市場を探すのではなく、本丸で勝負したいのです。見る人によっては、「クレイジーだ」「頭のおかしい奴だ」と思うのでしょうね。大手がいるところに攻め込むなんて、あいつはアホだと。「ホンダとどうやって戦うんだ」といったことは100回以上言われてきました。それもよくわかります。

 でも、始める前からそんなことを言っていては何もできません。そこに挑戦して、困難を乗り越えようとしない考え方を理解できない。

なぜクレイジーで
あり続けられるのか

――徳重さんのそうした考え方は、どのように養われたと思いますか。

 実は、明治以降の思想家や起業家にとても影響を受けています。昔の人たちは、できるかできないかではなくて、「それが必要だ」という考えが先行します。たとえば、私は浅野セメント(現太平洋セメント)の浅野総一郎さんが大好きです。彼を描いた『九転十起』(幻冬舎)という本があるんですね。七転び八起きではなく、9回転んで10回起きる。まさにその精神です。

 何もない横浜の海を前にして、「俺にはタンカーが通る姿が見える」「ここに石油コンビナートが並ぶ」と思えるのが浅野さんです。サンフランシスコで整備された臨海工場地区を見たとき、「これだ、これが日本には必要なんだ」と思ったんですね。

 彼は、夢想したことを実際に成し遂げました。もちろん、そんなことは無理だと大変な反対があるわけですが、それで諦めることはしなかった。

――誰が見ても無理だと思うことでも、理想に突き進んだ。

 はい。もう少し歴史が浅い例では、新日本製鐵の永野重雄さんも尊敬しています。彼の事業の文脈も、できるかできないかではなく、日本に何が必要かというところから来ています。戦争に負けた日本は、すべてが焼け野原になりました。工場もない。人もいない。お金もない。何もないわけです。そのときに、論理が先行する経営者は何を考えたのか。頭がいいから現実的になり、低賃金のアジアで繊維業をやろうと考えます。

 しかし、永野さんは違いました。なぜ、俺たちはアメリカに戦争で負けたのか。そこには重工業の圧倒的な違いがあるからであり、日本もそうならなければいけないと考えたわけです。ないない尽くしのなかでも、重工業で勝負しようと。彼には「鉄は国家なり」という気概があったのです。

――徳重さんにも彼らと似たような想いがあるのですね。

 私は、日本がいまのままではダメだと真剣に思っています。日本の大企業がよくなればそれでもいいのですが、彼らは変われません。まったくダメ。日本に必要なのは新しい成功モデルです。

 私が考える新しい成功モデルとは、日本のベンチャー企業がシリコンバレーのように急速に大きくなり、国を動かすというイメージです。それはいまのトレンドでもあります。世界は大きく動いていて、そのスピードも速い。大企業はそれについていけませんが、ベンチャーであればついていけます。

 これからはアジアの時代だとも言われていますよね。アジアを上手く活用して、財閥などと提携してメガ・ベンチャーをつくりたいと思っています。

――なぜ自分がクレイジーな発想をできると思いますか。

「起業家×世界」で、それぞれをフロントで見ていることが大きいと思います。私はシリコンバレーに5年いましたし、いまはほとんどをアジアで過ごしていて、日本には1ヵ月で5日しかいません。進出先の現場をわかっていることは重要だと思います。それから先ほどの話にもつながりますが、過去の起業家の歴史を学んでいること。それらすべてがかけ算になっています。

 私がやろうとしていることは、日本的に見ればクレイジーだと思われるかもしれません。しかし、台湾のHTCのように、シリコンバレーだけではなく、アジアにもこの10年、20年でメガ・ベンチャーに成長した企業が誕生しています。最近では小米科技(シャオミ)も有名ですよね。彼らは創業5年で1兆円企業です。

 彼らにできて、なぜ我々にできないのか。その想いがモチベーションにもなっています。心からそう思っていなかったのなら、できるわけがありませんよね。同じ日本でも、昔の起業家はそれをやってきました。できないことはないです。

 いま、時代の節目を迎えていると思っています。大きく時代が変わる転換点。日本でも少子高齢化や財政の問題などさまざまな問題がありますが、最も重大なのはメンタリティの問題です。明治維新が1875年、終戦が1945年、と時代の大きな変化は70年周期で起こるという考え方があります。2015年前後に何が起こるかわかりませんが、そこには新しい時代に必要な成功モデルが必要です。

 明治維新を見ると、その変化は下級武士がつくりました。日本を立て直すための変化を起こすために、私自身はもちろんですが、若い社員にその一端を担ってもらいたい。彼らがうちの会社をスピンアウトしてもかまいません。そのメンバーの一人になればいいと思っています。

後編更新は、4月22日(水)を予定。

後編「時代を動かすのは、情熱と狂気である テラ・マフィアで日本の産業を変える」

 

 【徳重徹氏「巻頭言」掲載号のご案内】

『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2014年11月号 

巻頭言

経営とは狂気の産物である
徳重 徹 テラモーターズ 代表取締役社長

│特集│
創造性 vs. 生産性

【インタビュー】
創造性も生産性も後からついてくる
社員が結果を出せる「仕組み」 とは何か
松本 晃 カルビー 代表取締役会長兼CEO

組織の意味を再定義する時
企業は創造性と生産性を両立できるか
琴坂将広 立命館大学 准教授

【インタビュー】
成功を計画し、早めに失敗を起こす
ピクサー流 創造性を刺激する組織のつくり方
エド・キャットムル ピクサー・アニメーション・スタジオ 共同創設者 ピクサー・アニメーション/ディズニー・アニメーション 社長

恐れを克服し、自由な発想を生み出す
IDEO流 創造性を取り戻す4つの方法
トム・ケリー IDEO ゼネラル・マネジャー
デイビッド・ケリー IDEO 創設者兼会長

【インタビュー】
日本人初のISSコマンダーが実践するリーダーシップ
宇宙空間で求められる極限のチーム・マネジメント
若田光一 JAXA 宇宙飛行士

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